Archive for the ‘役に立つ!!心理学コラム’ Category

8月の心理学コラム:選択肢はほどほどが一番?(担当:木野和代)

2022/8/10 >> 役に立つ!!心理学コラム

皆さんは、洋服や靴などの買い物が好きですか? 私はちょっと苦手です。理由はいくつかありますが、一番は、欲しいものがわからなくなるからです。デパートに行ってたくさんの商品が展示されているのを見て、どれも素敵だな、とは思うのですが、実際に選ぶとなると、その品数の多さに圧倒され、だんだんとどれも同じに見えてしまうのです。大学生になったばかりの頃は、制服があった高校時代に戻りたい気持ちになりました(笑)。
選択肢が多いのは楽しいけれど、ちょっと疲れる…、そんなことを検討した面白い実験があります。Iyengar (2000)らによるこの実験は、豊富な品揃えで有名なある高級食料品店おいて、2種類の実験状況を用意して行われました。具体的には、試食できるジャムの種類が①24種類の場合(=種類が豊富)、②6種類の場合(=種類を限定)です。そして、それぞれの実験状況で、お客さんの行動を観察しました。その結果は、以下の表のとおりでした。

c・dの試食コーナーに立ち寄った人数(率)を見ると、種類の多い24種類の方が人の興味をひくことがわかりますが、f・gの実際に購入した人数(率)を見ると、種類の少ない6種類の方が多く、試食できる種類が多いからと言って、それが実際の購買には結びついていないことがわかります。この実験について知ったとき、私だけじゃないんだ、とうれしくなったのを覚えています。
皆さんは、多くの選択肢から何かを選ぶことに難しさを感じたことはありませんか? 学生たちにとっては進路選択もその一つではないかと思います。そんなときどうしたらよいのでしょうか? それについてはまたいずれかの機会に。
【引用】 Iyengar, S. S. & Lepper, M .R. (2000). When choice is demotivating: Can one desire too much of a good thing? Journal of Personality and Social Psychology, 79, 995-1006.

7月の心理学コラム:初期設定の力(担当:森康浩)

2022/7/21 >> 役に立つ!!心理学コラム

うちの子供は回転ずしが大好きです。何を食べたいと聞くと必ずといっていいほど候補にあがります。
回転ずしでは、高級なネタを1貫で提供するところもありますが、基本的には一皿に二貫乗っているのが普通です。食べる方からするとレーンを回る皿に2貫ずつ乗っているのでたいして気にせずに食べると思います。しかし、日常を注意深く見ると、最初に設定されているものをついつい受け入れてしまうことが多くあります。このようなことを初期設定といいます。

日本では臓器提供の意思表示として、免許証に選択肢があってそれに意思を書き込むことで臓器提供に対して同意しているのか確認することができます。しかし、ここに意思を書き込んでいる人もいると思いますが、いない人も多いと思います。フランスやスペイン、北欧では、すでに印がつけられており印を外さないと臓器提供に同意していることになってしまいます。そのため、自分の意思を表明するする人が多くなっています。

Googleの社員食堂では、野菜などのヘルシーなものが取りやすく、カロリーの高いものは取りにくくなっており、自然と健康的な食事ができるような状況となっているそうです。

つまり、設定される状況の違いによって人の行動は変化してしまうことになりますし、最初に与えられた状況にあわせて行動しようとする傾向もあります。

普段の日常を振り返って、初期設定に従っていつの間にか受け入れてしまっていることが他にもあるか考えてみましょう。

6月の心理学コラム:学科長と役割パーソナリティ(担当:友野隆成)

2022/6/10 >> 役に立つ!!心理学コラム

2022年度から,前学科長の佐々木先生の後を引き継いで,心理行動科学科の学科長になりました。就任後2ヶ月ほどが経ち,少しずつ慣れてきたように思いますが,まだまだ力量不足な感は否めません。引き続き,自分なりに頑張って行きたいと思います。

ところで,心理学では役割パーソナリティ(役割性格)という概念があります。実際のパーソナリティ如何にかかわらず,その人がおかれた立場や役割に応じたパーソナリティが発現するというものです。例えば,元々はおとなしいパーソナリティの男性が,職場では仕事に厳しい(上司の役割パーソナリティ)けど家庭では家族に甘い(父親の役割パーソナリティ)といったように,一見相反するような特徴が見受けられたりします。

ちなみに,仮に学科長の役割パーソナリティがあるとすれば,リーダーシップがある,調整力がある,包容力がある,といったところでしょうか(これらの特徴は,完全に私の偏見ですが)。これからさらに学科長としての経験を積んでゆき,年度末には学科長の役割パーソナリティが形成されているかどうか自己点検してみたいと思います。

なお,本学では,今年度は感染防止対策を徹底し,可能な限りコロナ前に近づけられるよう各種イベント等を開催していく方針となっております。その一環として,過去2年間は不開催となっていた心理行動科学会総会を月末に開催予定です(私も,心理行動科学会長として一言挨拶する予定です)。その模様は,新学生委員に就任したどなたかに後日「学生委員通信」で報告してもらいますので,乞うご期待!

4月に,3年ぶりにオリエンテーションキャンプを開催しました。その際の「学科長挨拶」の模様です。今年度は,「学科長挨拶」の場面が増えそうです。

5月の心理学コラム:お口ミッフィー(担当:千葉陽子)

2022/5/30 >> 役に立つ!!心理学コラム

ミッフィー好きが高じて、ミッフィーのあれこれを探求するようになりました。ミッフィーの口は、いわずもがな「×」で描かれています。過去に、喋ってはいけない状態のことを「お口はミッフィーで!」と表現することが流行りました。口がバツ=喋ってはいけないという意味を持つのでした。「お口はチャックで!」と同意ですね。しかしながらよく調べてみると、この「×」として描かれていたものは、口だけではなく、「口+鼻」だったのです。確かに動物のウサギを見てみると、鼻と口が「×」に見えるような見えないような…。

さらに、ミッフィーのお父さんお母さんの口は「*」で、線が一つ加わります。これはなんと「シワ」の表現なんだそうです。大人の表現を線一つの「シワ」で表すあたりがクスッと笑えて、さらにミッフィーの世界の魅力に取りつかれるのでした。

「お口ミッフィー」の話とは少し離れますが、日本人が好きなキャラクターの特徴を皆さんご存知ですか?1000人を対象にした大規模調査(牟田,2014)によると、「可愛くて子供っぽい」キャラクター(多くは動物や人間の幼児)であることが示唆されています。また、形の比率が印象形成に影響を与えるということで、「縦横比」(全体および顔)からキャラクターの分析も行われています。それらの結果から、日本では上述した特徴が見られる細長くないキャラクターが好まれる一方、米英では比較的大人の特徴が見られる細長い人間キャラクターが好まれるようです。国によってキャラクターの好みの特徴が全く異なるんですね!!!!

この研究では、日本人が子供っぽいと思うキャラクター(17位/20位)・可愛いと思うキャラクター(12位/20位)・好きなキャラクター(11位/20位)にミッフィーがランクインしていました。もちろん、英米における好きなキャラクターについてはランク外でした。自分自身が感じているミッフィーへの印象と世間の印象にはギャップがあることもまた自分自身について考えるきっかけになり、ミッフィー沼にしばらくハマりそうです。

貴重なお口「O」なミッフィー

 

4月の心理学コラム:映画の話『トップガン』(担当:大橋智樹)

2022/4/10 >> 役に立つ!!心理学コラム

2020年度の世界の映画界を席巻するであろう『トップガン マーヴェリック』の公開が間近に迫っていますが、この作品がいまから36年前の1986年に公開された『トップガン』の二作目であることはよく知られている通りです。今回はこの36年前の作品について熱烈なファンの一人として語らせて下さい。

当時、私は15歳の高校1年生でした。どういう経緯でこの映画に出会ったのか覚えていませんが、初めて一人で観に行った映画だったこと、そして、観終わったあと背筋を伸ばして踵を鳴らして地下街を歩いていた自分の姿ははっきりと覚えています。

その後、時にはテレビのロードショー番組で、時にはVHSを借りて、ある時からは購入したDVDを、と、何度も何度も観ました。戦争映画であり、アクション映画であり、友情物語であり、ラブロマンスあり、悲しい展開もあり、挫折と立ち直りありと、コテコテな王道ストーリーがすべて詰め込まれたエンターテインメント作品でした。社会的なメッセージが前面に出ることもなく、シンプルに多くの人々を楽しませることをとことん考え抜いた作品だったと思います。

その公開から36年が経ち、社会は大きく変わりました。「善なること」「ほころびがないこと」が求められ、少しでもそこから逸脱する要素があれば総攻撃が待っている、そういう世の中になりました。エンターテインメント超大作だった本作が、作り手にとって厳しいこの社会でどのように表現されて帰ってくるのか、当時若干24歳だった主演のトム・クルーズが60歳で創り上げる次回作がとても楽しみです。