Archive for the ‘役に立つ!!心理学コラム’ Category
6月の心理学コラム(担当:木野和代)
2012/6/11 >> 役に立つ!!心理学コラム
棄てられない理由
先日,神戸大学で日本感情心理学会20回大会がありました。
大会プログラムには「行動経済学と感情」という講演があり,心理学と経済学の関係や行動経済学でわかることの概略を聞くことができました;
経済学で想定されている人間像は「合理的な経済人」だが,そこから逸脱した人間の行動はいくつもある。これらの例外に着目して,その中に法則性を見つけ出してきた。
たとえば,損失回避性(同額ならば,損失による不満足の方が,利得による満足より大きい)が人の行動に影響すること。その一つに保有効果(自分が所有するものに高い価値を感じ,手放したくないと感じる)というものがあること,など。
聞いていて,ふと,昨年度の学科卒論発表会で聞いた研究報告を思い出しました。
それは衣服の購入・着用・廃棄に関する研究です。その中で,買ってはみたけど数回着たか全く着ないままになっている服の廃棄(不着廃棄)が少なかったと述べていました。
ほぼ新品とはいえ,もう着ない(不要)にもかかわらず,手放すのは惜しいと感じて廃棄しない。これも保有効果でしょう。
そういえば,近頃,自宅が手狭になってきたような。3年前の引っ越しで,かなりの荷物の整理をしたはずなのに。いったい何をため込んでいるのか…。
[写真]鉄人28号モニュメント
大会プログラムの挿絵になっていたので,見学にいってみました。全長18mの実物大だとか。
阪神大震災後の復興・商店街活性化のシンボルとして,神戸市長田区に2009年につくられたそうです。
5月の心理学コラム(担当:大橋 智樹先生)
2012/5/30 >> 役に立つ!!心理学コラム
幻覚を見るのは異常ではない
最近,風邪をひきました。扁桃腺が弱いものですから,いったん風邪をひくと高熱が出てしまいます。今回も39.3℃まであがりました。
子どもの頃もそうでした。しょっちゅう喉を腫らし,高い熱を出していました。大橋少年はそんな高熱の床でおもしろいことに気づきます。夜中にふと目を覚まして見あげると,天井がぐーっとゆっくり回りながら遠ざかっていき,同時に身体が布団にぐぐーっと沈み込んでいきます。私の家の天井や布団に特別な仕掛けがあったわけはなく,これは間違いなく幻覚といえます。ずっと同じ姿勢で寝ていたりするときに起こります。
このような幻覚についての心理学的な研究は「感覚遮断実験」と呼ばれます。全身を真綿でくるみ,耳には耳栓,目は半透明のカバーで覆います。このような刺激の少ない状態で長時間いると,ほとんどの人は幻覚を見ます。人影だったり,音楽だったり…。
このような現象は,人間が刺激なしには生きられない存在であることを示す証拠だと考えられています。外から刺激を与えられないならば自分でつくり出してやる!という感じです。いわば,正常でいるために敢えてつくり出した異常状態とでもいいましょうか。
人間の心って奥が深い。こういうことを知る度に,そう思います。
4月の心理学コラム(担当:佐々木隆之)
2012/4/20 >> 役に立つ!!心理学コラム
夢の中の音楽 (その2)
1月のコラムで,夢うつつの中で不思議な音楽を聴いた(ような気がした)という経験について書いた.
聴いたと思ったものが見つからない以上,何らかの心理的な働きによって起こった現象であると考えざるを得ない.これにはいくつかの解釈が可能である.1つ目は,すべてが夢の中のでき事だったというものである.音楽を聴きながら眠りに入ってしまい,音楽を聴くときにはいつも何か(知覚・認知的な意味で)面白いことはないかと考えながら聴いていることと関わって,夢に架空の面白い音楽が出てきたという解釈である.私が作曲家なら,「夢でインスピレーションを得た」といって新たな曲を書くかもしれない.
2つ目は,聴いていた音楽をきっかけに,私の頭の中で音楽的な空想イメージが勝手に展開し,それが,自分でも驚くほど創造的であったというものである.もしそうだとすれば,私は普段から空想の世界に入るということが少ないので,とても不思議な感じがしたのであろう.
3つ目は,睡眠と覚醒の間を行き来していたため,その切り替わりが意識の上では音楽のポーズのように聞こえたというものである.しかし,睡眠で意識のない状態が空虚時間と認識されるということを聞いたことがないし,経験したこともないので,この解釈には無理がありそうである.
4つ目は,半覚醒の状態で音楽を聴いていたため,耳に入ってきた音楽によって喚起された感情が増幅されたというものである.まどろんでいる状態で感受性が高くなることはないことではないかもしれない.誇張された感情は解釈できるが,旋律の記憶はどのように解釈しようか?
他の解釈もあるかもしれないが,いずれにしても証明のしようがない.経験したことが研究のヒントになることはよくあるが,意図的に再現できないものは研究材料にはできない.とても面白いことが起こったのに残念である.生まれて初めての面白い経験だったが,死ぬまでにもう一度経験してみたいものである.
3月の心理学コラム(担当:工藤敏巳)
2012/4/2 >> 役に立つ!!心理学コラム
「成功の秘訣」
先日、ミスユニバース日本代表に輝いた原綾子さんはソフトテニス部に所属しインターハイに出場しています。インターハイ出場を決めた時の感激は今も忘れません。なぜそんなこと知っているか言うと、実は私が彼女のコーチをしていたからです。ミスユニバースは美の祭典と言われていますが、彼女の魅力は単に美しいだけでなく知性的な努力家というところにあります。
私はGPDCAサイクルに沿って指導を進めます。GPDCAサイクルとはPlan(計画)→ Do(実行)→ Check(評価)→Act(改善)という業務管理の改善手法にGoal(目標)を加えたもので、私はそれを成功の秘訣と呼んでいます。目標を立て達成するために何をするか計画し実行します。そして、結果について何が良かったのか、あるいは改善点を確認し、目標を修正し計画を練り直します。これを繰り返すことが成功に通じる唯一の方法です。おそらく彼女は日本代表という目標に向かって計画的に取り組んだに違いありません。Facebookにある彼女の食日記からも伺い知れます。日本代表になった今、今度は世界一という目標に上方修正し計画的に取り組んで行くことでしょう。心から成功を祈っています。
秘蔵写真(高校時代の彼女:夏のインターハイ)
2月の心理学コラム(担当:高田利武)
2012/2/10 >> 役に立つ!!心理学コラム
「甘え」と別れ
日本人の心のあり方を解き明かす鍵概念の1つである「甘え」(土居,
1971)は、母親と共生する乳児の感情に由来するもので、他者と情緒的に一体化しようとする心理です。人間は本来、一人一人が個別の存在であることを考えるなら、「甘え」は自他の分離の事実それ自体を心理的に否定しようとするものです。
個々人が独自の存在である以上、それぞれが別の道を歩むことによる「別れ」は、仮令どんなに親密な間柄であろうとも必然だと言えます。これは私の偏見に過ぎませんが、「甘え」の心理が濃厚である日本人にとって、「別れと言えば昔よりこの人の世の常なるを…」という具合に、「別れ」はとりわけ情緒をくすぐるのかも知れません。
さて、例によって鉄道ですが、私は写真のような2つの線路が分かれる情景に心惹かれます。分岐駅から一緒に走ってきた列車が、ここでそれぞれ別の目的地に向かう様子が、人生での別れにも通じるように思えるからです。1960年代、秋田駅を午前8時10分に同時発車した2本の特急が、分岐点で互いに別れを惜しむように警笛を鳴らし、一方(つばさ)は奥羽本線を上野へ、もう一方(白鳥)は羽越本線で大阪へ向かう様子は、鉄道ファンの間で有名でした。
ところで私こと、心理行動科学科の発足以来5年間、皆さんとともに走ってきましたが、この3月でお別れです。皆さんは右側の本線を未来に向かって驀進して下さい。私は左の支線で山奥へ向かいます。では皆さんさようなら。随分ご機嫌よう。