Archive for the ‘役に立つ!!心理学コラム’ Category

11月の心理学コラム:映画の話『テレビアニメ「鬼滅の刃」遊郭編』(担当:大橋智樹)

2021/11/29 >> 役に立つ!!心理学コラム

 「鬼滅の刃」は少年ジャンプに2016年から2020年まで連載されていたマンガ作品です。大正時代を舞台に、鬼と鬼狩りとの戦いが描かれています。2020年には「無限列車編」として映画化され、日本国内の興行収入1位となりました。2019年には『竈門炭治郎 立志編』、2021年には『遊郭編』テレビアニメ化され、さらに続編の放送も決まっている大人気作品です。
 この作品の人気の理由はさまざまに考察されていますが、ここでは一つの特徴を取り上げようと思います。それは「悪役の背景」です。多くの物語には正義を行う者と悪を行う者が登場し、それらの戦いを描く作品はとても多いのですが、この作品は悪役である鬼の背景が丁寧に描かれることに特徴があります。
 『遊郭編』で戦った鬼は、もともとは貧しい人間の兄妹でした。その二人が鬼になった経緯が、戦いの終わったあとの一話分を使って丁寧に描かれるのです。幼いころから、さげすまれ、うとまれ、社会から排除された先に、彼らは鬼になる道を選んだストーリーが、見る者の心を打つのだろうと思います。
 悪役にも優しい光を当てること、それがこの作品の人気の源の一つだろうと私は思います。同時に、私たちの社会はそれを実践できているだろうか。そんなことも考えさせられる作品でした。

10月の心理学コラム:「真正面」なミッフィー(担当:千葉陽子)

2021/10/13 >> 役に立つ!!心理学コラム

 ミッフィーが好きです(副手のたかのさんも!)。モノトーンやシンプルなものが好きな所以か、なんともいえない魅力があります。無表情なので、自身の感情を投映することを許容してくれているところが好きなのかもしれません。高校時代、アニメのミッフィーがTVで放映されていました(ちなみにうさこちゃんとじてんしゃいう題名でした)。アニメの中のミッフィーは、自転車に乗りながらもこちらを向いていました(写真参照)。森の中の木をかき分けながらどんどん前に進んでいくミッフィー。その身体能力の高さに衝撃を受け、友人とその話題で沸いたのが昨日のことのようです。危ないですよ、前向いてください!という突っ込みを誰もが入れていたはずです。いつも真正面を向いているミッフィー。これには、作者の強い想いがあることを最近知りました。いつもミッフィーたちが正面を向いている理由は「子どもたちの正直なまっすぐな目に応えたい。嬉しい時にも悲しい時にも目をそらすことなく、読者の子どもたちと正直に対峙していたい」という気持ちのあらわれなのだそうです。

高い身体能力を発揮する!?ミッフィー

 乳児期の知覚・認知発達研究において、乳児の奇跡的ともいえる「顔」の認知についてはよく知られています。生まれたばかりの乳児の視力は0.02程度であるにも関わらず、生まれて一度も顔を見た経験がない新生児でも顔を選好することが様々な実験で明らかにされています。またある縦断的研究によって、月齢の低い乳児にとっては、顔は正面顔であり、横顔は顔とみなされない可能性が示されています。

 真正面をみつめるミッフィーを見習いつつも、世界をいつも真正面から受け止めていたらしんどい気がしてきます。たまによそ見しながら、生きていくのがよさそうです。

9月の心理学コラム:オンライン学会その2(担当:友野隆成)

2021/9/10 >> 役に立つ!!心理学コラム

昨年度のコラムでは,オンライン学会の話を取り上げましたが,準備までのところで終わっていました。今回はその続きで,先日開催された2つの学会大会に実際に参加した様子についてお話します。

1つ目は,7月下旬に開催されたICP(国際心理学会議)についてです。この学会は,4年に1度,オリンピックの開催年に開催されるもので,本来は2020年にチェコで開催されるはずでした。しかし,コロナ禍によって1年延期となり,オンライン開催となりました。私はZoomのブレークアウトセッションを使ってポスター発表を行いましたが,時間がある程度経過しても全く人が来ませんでした。その後,このまま誰も来ないのではないかと油断していた時に,突如として何人かの方が来られました(焦りました)。拙い英語でざっと研究を説明したところで時間切れとなり,ディスカッションをする前に強制終了となってしまいました(ブレークアウトセッションを使ったことのある方は,お分かりいただけるかと思います)。何ともあっけない幕切れでした。

2つ目は,9月上旬に開催された日本心理学会です。こちらはオンデマンド型のシンポジウムの企画(裏方)と,資料配信型のポスター発表を行ったのですが,ここでは後者についてお話します。こちらはICPとは異なり,決められた時間に発表するというかたちではなく,会期中に発表資料を配信し,コメントが来たらそれに対してリプライするという,テキストベースでの発表となりました。いつコメントが来るかわかりませんし,コメントが来てからリプライを返すまでにタイムラグが生じてしまうこともあり,これはこれで善し悪しだな,と思いました。

今回,2つの学会大会で2つの形式によって発表しましたが,自分が発表するときはやっぱり対面の方が良いなと思いました。自分の話を聴いてくださる方の顔が見えないと,イマイチ発表した気になりませんでしたので。その一方,自分が聴講するときはオンデマンドの動画視聴も有だと思いました。裏番組を気にせずに視聴したいものを視聴できますし,聴き取れなかった英語を繰り返し聴くこともできますので。コロナ禍の動向にもよりますが,今後は対面とオンラインのハイブリッド型の形式で学会大会が開催され,従来型の対面形式のみの大会はほとんどなくなっていくかもしれません。対面とオンラインの良いとこ取りで,学術交流が促進されると良いですね。

8月の心理学コラム: 「ドボ8」の不思議 (担当:佐々木隆之)

2021/8/30 >> 役に立つ!!心理学コラム

クラシック音楽を聴いていると,自然に歌詞が浮かんでくることがあります.ロッシーニのセビリアの理髪師序曲の「やめてけれ」やマーラーの交響曲第1番の「こがねむし」は有名なところです.これらは,似た音楽が存在していてその歌詞を連想させると解釈されます.ドボルザークの交響曲第8番(通称「ドボ8」)にも歌詞がぴったりはまる箇所があります.第1楽章の「進めー進めー」や第2楽章の「私やーよやーよ」です.これらには歌詞を連想させる音楽が存在しているわけではないのに日本語の歌詞が自然にわいてきます.ドボルザークの他の音楽にも同様の現象があるので,チェコ(ボヘミア)の音楽が日本の音楽や日本語と何か通じるところがあるのかもしれません.このことについては,別の機会に改めて考察したいと思います.

ちなみに,私が持っている大阪フィル山田一雄先生指揮の「ドボ8」は第1楽章が2小節短いという極めて珍しい演奏です.山田一雄先生と親しくお話しさせていただく機会があり,その演奏のことについて聞くことができました.第1楽章の途中にトロンボーンの短いソロパートがあるのですが,2小節早く吹いてしまったというのです.演奏会の後,当時大フィルの常任指揮者で音楽監督だった朝比奈隆先生が「うちの若い者が粗相をして大変申し訳ない」と謝っていたと伺いました.古き良き時代の大先生たちのエピソードを聞くことができてうれしかったことを思い出します.
もうすぐ後期が始まりますが,COVID19の感染状況により大学は少しの間遠隔授業となります.学生も教員も遠隔授業に少しずつ慣れてきていますが,対面の授業が一日も早く再開できるよう願っています.

7月の心理学コラム:『人づきあい、なぜ7つの秘訣?』(担当:木野和代)

2021/7/10 >> 役に立つ!!心理学コラム

今回は本を紹介します。この本は,心理学の知見にもとづいて、人づきあいの秘訣を7つ厳選して紹介するものです。皆さんは,7つ,何を思い浮かべますか?

第1章で紹介されているのは「あいさつ」です。
えっ,これが秘訣なの?と思った方も多いのではないでしょうか? 「おはよう」「こんにちは」「さようなら」「ありがとう」など、ふだん当たり前のように口にする言葉ですから,そんな反応も当然でしょう。

では,いつもこれらの言葉に気持ちを込めて相手に届けていますか? 
「おはよう」というあいさつ一つをとっても,相手に対するどのような想いをこめた言葉なのかをこの本で確認して意識することで,きっと普段のあいさつがいつもよりも相手への思いやりを伝える交流となることでしょう。

この本で紹介される7つの秘訣は決して目新しいものではありませんが,具体的な行動の背後の気持ちや心構えを知ることができます。そして,これらの行動を自分からすることの重要性も説かれています。行動が「秘訣」となる鍵はそこにあるのではないでしょうか。

本学では,今年度は6月から対面での授業が始まりました。教室で授業を受けられるようになり,ともに学ぶ仲間・友人の大切さに改めて気がついた人も多いことでしょう。そうであれば,それを是非行動に表して伝えていきましょう。マスクで顔が半分隠れていると,伝わりにくいこともあります。相手の視点にも配慮しながら,自分の思いを伝えることを一人一人が心がけて,ますます気持ちのよいキャンパスにしていけるとよいですね。