Archive for the ‘役に立つ!!心理学コラム’ Category

10月の心理学コラム:認知科学のススメ(担当:瀧澤純)

2024/10/15 >> 役に立つ!!心理学コラム

10月に行われた日本認知科学会第41回大会に参加しました!

 

認知科学とは、知覚、記憶、思考などの知的機能(=認知)を研究する学問です。認知心理学と比べると、認知科学は計算機科学や工学的アプローチの要素が強いという特色があります。

 

今回の大会で私が感じたのは、「認知科学は ①脳神経活動のような研究から、現場感の強い研究まで幅広い ②心理学と同じく統計的仮説検定も使うけど、結果を視覚的に伝えることを重視する ③発表中に冗談を言ったり研究の困りごとを公表したりする発表もある」ということです。

 

③に関して、とある発表の終盤に「この研究には、これだけの人が関わってくれました(大勢の共同研究者の顔写真が画面に表示され、会場が感動的な空気に包まれる)……でもこれらの研究ができたのもすべて私のおかげです!」という主旨の発言をした方がいて、会場は笑いに包まれていました。
研究では厳密さや成果が重要なのは当然ですが、研究者自身が感じる「おもしろさ」を大切にする姿勢や、自分の研究が途上であるという謙虚な姿勢があり、みなさん素敵でした。

 

今回の大会のページでは、発表の原稿を読むこともできます。認知科学を学んでみませんか。

日本認知科学会第41回大会ページはこちら

202410

8月の心理学コラム:映画『インサイド・ヘッド』(担当:木野和代)

2024/8/5 >> 役に立つ!!心理学コラム

8月1日にディズニー映画『インサイド・ヘッド2』が公開されましたね。

前作『インサイド・ヘッド』は11歳の少女ライリーの頭の中に5種類(5人)の感情がいて、この5人が司令部でライリーの行動を操っているという設定です。子ども向けのアニメかなと思っていたら、感情心理学の視点からも興味深い映画でした。
ライリーの頭の中にいる5人の感情は、感情心理学では基本感情にあたります。基本感情とは、文化普遍的・生得的と考えられている感情で、一般に喜び、悲しみ、怒り、恐れ、嫌悪、驚きの6種類が挙げられることが多いです。そして、各感情は環境に適応するための役割を持っていると考えられています。ネガティブな感情は厄介だなと思う方も多いと思いますが、これらにも意味があるのです。
ライリーの頭の中にいるヨロコビ、カナシミ、イカリ、ビビリ、ムカムカの5人も、彼女の頭の中でそれぞれの役割を果たしています。映画の中で、ヨロコビは、カナシミの役割を見出せずにいますが、二人でライリーの脳内を冒険するなかで、ライリーを守るには5人みんなが必要だと気づくのが見どころの一つだと思います。もう一つの見どころは、引っ越し直後のライリーが新しい環境への適応という課題に直面している状態であることではないでしょうか。だからこそこの5人の感情の役割がよく見えてくるように思います。まだご覧になっていない方は、ぜひ前作も観てみてください。

さて、今夏の続編はどうでしょう? 予告サイトをみていると、前作から少し成長したライリーの中に、新たな感情、それも自己意識がかかわるなど少し複雑な感情が登場しているようです。楽しみです!

 

7月のコラム:復活!対面での募金活動(担当:友野隆成)

2024/7/19 >> 役に立つ!!心理学コラム

心理行動科学科には,1年生の必修科目に「心理学実践セミナー」という科目があります。この科目は,受講者を3つか4つの班に分け,それぞれの班で設定されたテーマについて,具体的な内容を議論し,実際にデータを取って分析し,あるいは作品を作成して,一般に向け発表するという非常にユニークなものです。

私がこれまでに担当した班では,2011年~2018年の間に,主に東日本大震災の被災地支援のための募金活動を,簡便な実験や調査ともに本学の大学祭において対面で行ってきました。その後コロナ禍でオンライン募金活動に切り替えたり,そもそも授業を担当しない年度があったりと,2018年までに実施してきた形態での募金活動は暫くやっておりませんでした。2024年になり,久々に授業を担当することになりましたので,対面での募金活動を復活させることにしました。

現在,友野班のメンバー23名で,今年1月に発災した能登半島地震の被災地支援のための募金活動を中心としてさまざまな企画を考案しております。10月12日(土)・13日(日)に開催される本学大学祭におきまして,ブースを設置して募金活動を行いますので,大学祭にお越しいただき,活動の趣旨にご賛同いただける皆さまには,ご寄付いただけましたら幸いです。

4チームに分かれて企画検討中です

6月の心理学コラム: 潜在化しやすい犯罪被害とは(担当:浅野晴哉)

2024/6/7 >> 役に立つ!!心理学コラム

宮城学院女子大学心理行動科学科の教員になり、1年が過ぎました。ゴールデンウイークが終わり、皆様方も本格的に学業や仕事に打ち込んでいるのではないでしょうか。一方、ペースが上がらないなど何となく疲れを感じている方は、1年前のコラムにおいて五月病について触れましたので御参照いただければ幸いです。

さて、今回は私の専門である犯罪被害者等支援に関して取り上げます。去る5月23日に宮城県庁講堂で「令和6年度宮城県犯罪被害者等支援連絡協議会総会」が開催されました。本総会は全面的に改正された「宮城県犯罪被害者等支援条例」(以下「改正条例」という。)施行後、初となる会議でした。また、僭越ながら「犯罪被害者等の心理と支援~潜在化しやすい犯罪被害の検討~」と題し、私が講演させていただきました。

その理由は、改正条例第21条に「被害が潜在化しやすい犯罪被害者等に対する支援」が掲げられているためです。被害が潜在化しやすい犯罪被害者等とは「子ども、障がい者、高齢者、性犯罪・性暴力被害者、配偶者からの暴力による被害者等」とあります。なぜ潜在化しやすいのでしょうか。例えば、第1に示された「子ども」の性犯罪被害は、監護者、教師、支援者及び塾講師など本来子どもを性犯罪から守り、かつ、性犯罪を受けたときに子どもが支援を求める信頼すべき大人が加害者になるためです。子どもは、本来支援を受けるべき大人からの被害であるからこそ、訴える力を失います。加害者はこれらの関係性に乗じて長期かつ反復した性暴力を繰り返し「被害が潜在化」します。その子どもは長期反復性の被害により、心のみならず身体にも甚大な影響を受けるのです。

これを防ぐには、このような犯罪被害を受けている人が多いという現実を、私たち一人一人が知ることです。つまり、現実を知り、これらの問題を「見逃すことができない」という認識が芽生え、潜在化した犯罪被害者等への支援体制構築につながるのです。

どうか、このコラムが皆様にとって、犯罪被害を潜在化させないという気運を醸成するための第一歩になることを祈念いたします。

それでは、またこのコラムでお会いできることを楽しみにしております。

同連絡協議会総会講演状況

 

5月の心理学コラム:『消滅可能性自治体』(担当:大橋智樹)

2024/5/10 >> 役に立つ!!心理学コラム

「人口戦略会議」は4月24日、全国744市町村を「消滅可能性自治体」と発表しました。地域ブロック別ではわが東北が165自治体で最高なのです。これは、国立社会保障・人口問題研究所が昨年12月に公表した2050年までの地域別将来推計人口に基づいて分析し、子どもを産む中心的な年齢層である20~39歳の女性人口の増減に着目したものです。この”若年女性”の減少率が50%以上である自治体は消滅する可能性がある(高い)として示したものです。

たしかに、いまの科学では女性の出産によってのみ人口は維持または増加されるのであって、”若年女性”が減っている=出生数も減る=人口が減るという構図は正しいでしょう。逆に言えば、若い女性を増やし、出生数も増やさないと、人口減少は止まらないとも言えます。

一方で、女性の活躍を推進させるためのさまざまな施策に国は躍起になっています。ここでの「女性の活躍」とは、家庭以外での仕事上の活躍を指しているのでしょうから、女性が男性と同じく働き続けることが目標とされるわけです。

この2つのこと、すなわち、「女性が子どもを産むこと」と「女性がバリバリ社会で働くこと」をどう両立させるかが、人口減少にどうブレーキをかけるかの答えなのだろうと思います。

ただ、最近ちょっと考えるんです。カナダの人口は4,000万人、オーストラリアは2,700万人、オランダ1,800万人です。人口で言えば、日本の50年先と同じくらいの国はたくさんある。人口減少にブレーキをかけることだけを考えるのではなく、人口が減っても豊かな国を作ること*も*考えても良いかもしません。

 

図:消滅可能性自治体マップ(朝日新聞のサイト(https://www.asahi.com/special/population2024/)より引用)