Archive for the ‘役に立つ!!心理学コラム’ Category
11月の心理学コラム:新型コロナウイルスCOVID-19とヒューマンエラー(担当:大橋智樹)
2020/11/27 >> 役に立つ!!心理学コラム
この1年、世界を支配したCOVID-19は、私の専門であるは産業におけるヒューマンエラーの防止ととてもよく似ています。今回は、そのお話をしましょう。
両者がよく似ているのは、「何もしなければ起こらない/かからない」という“完璧な対策がある”という点です。ヒューマンエラーは何らかの業務や作業があって初めて発生するので、現場が止まっていれば基本的には起こりません。COVID-19への感染も、一人家にじっと閉じこもって人との接触を避けていればかかりません。
でも、ヒューマンエラーを起こしたくないからと現場を止めていたら、そこには何も生まれません。もちろんお金も入ってきません。COVID-19への感染を恐れて家に閉じこもっていても同じです。人とのコミュニケーションや、現地に自分で足を運ぶことによって生まれるリモートでは得難い貴重な経験はできません。ですから、“完璧な対策”は選択肢になり得ないので、どちらも一定のリスクを受け入れながら活動していくという選択肢しか残らないのです。
実はこのような、アクセルとブレーキを同時に踏むようなことは、ヒューマンエラーや感染症以外でも起こっています。たとえば、車や列車、飛行機を利用することも一定の事故のリスクを受け入れることですし、進学や結婚といった人生の選択でも同じです。社会にも人生にも、あらゆる人間の活動にリスクはつきものなのです。
大学は、そういった問題をきちんと捉えて、後悔の少ない選択ができるようになるための力を身につける場です。文系学問に位置づけられながら理系的要素を多分にもつ心理学は、そういった力を身につけるためにうってつけな学問だと思います。ぜひ、一緒に心理学を学びましょう!
10月の心理学コラム:理論と経験のミスマッチから学問は進む!?(担当:木野和代)
2020/10/10 >> 役に立つ!!心理学コラム
以前とりあげた「認知的不協和理論」では,「人気のタピオカのお店で長時間行列に並ぶことになったけれど,待った甲斐あって美味しくて満足だった,また行きたい」ということが起こります。しかし,理論ではうまく説明できないケースがあるようです。
濱(1991)は,経験に照らし合わせてみると,その商品の品質が劣悪だったときは満足(しようと)しないのではないか,という考えから,それを確かめる実験を行いました。それは,大学祭の模擬店(たこ焼きの屋台)でのフィールド実験でした。
コスト(待ち時間が長いか短いかの2パターン)と商品の品質(食材などの質が高いか低いかの2パターン)を組み合わせた4つの条件を設定し,条件間でお客さんのおいしさの評価を比較したのです。
結果はというと,高コスト(長時間待ち)の場合には,低品質のたこ焼きが提供されるとおいしさの評価が低くなる傾向にありました。つまり,経験からの予測どおり,品質の低い商品に対しては認知的不協和理論が適用できないことが示されたというわけです。
これは,日本心理学会の研究大会で報告された研究で,以前ゼミの学生さんが,学科の実習室にある資料から見つけて,授業で紹介してくれたものです。授業では,学んだ心理学の理論を,身の回りの様々な出来事にあてはめて考えてみてもらいます。皆さんも座学で理論を学んだら,経験と照らし合わせて検討してみてください。面白い研究に発展することがあるかもしれませんよ。
文献:濱 保久 (1991). 待てば待つほど美味しくなるのか?―大学祭模擬店における認知的不協和理論の検証― 日本心理学会第55回大会発表論文集, p.680.
9月の心理コラム (担当: 佐々木 隆之)
2020/9/25 >> 役に立つ!!心理学コラム
音楽の聞き方
音楽を聞くといっても,初めて聞く音楽と繰り返し聞く音楽とでは,認知処理に大きな違いがあります.知っている曲を繰り返し聞くときの聞き方は,「再認」と呼ばれます.頭の中に記憶している音楽と,聞こえてくる音楽を照合するのが「再認」です.配信音源では,聞こえてくる音は常に記憶内容と同じです.音楽はいつも期待通りに進行し,期待が裏切られることはありません.一方,初めて聞く音楽は,比較する記憶が頭の中にはないので,まったく新しいものとして知覚認知の処理が行われます.そこでは,聞いている人の持っている音楽の知識や経験によって,いろいろなレベルの予測が働きます.次に何が起こるかワクワクしながら聞く人も多いでしょう.そこでは,期待通りだから面白いと感じたり,期待を超えたから面白いと感じたり,いろいろな要因が複雑に働いています.初めて聞く音楽の知覚認知処理と感じ方の関係については,わかっていないことが多く,これからいろいろな角度から研究する余地があります.
大学は半年遅れの入学式を行い,対面授業を開始しました.通常の形態に戻っただけなのに,とても新鮮な感じがします.いろいろな制約はありますが,徐々に本来の大学の姿に戻ることを願っています.
8月の心理学コラム:実はすごい文房具!! (担当: 森 康浩)
2020/8/26 >> 役に立つ!!心理学コラム
世の中にはさまざまな文房具があります。
皆さんはどのような文房具が好きで、愛用していますか。
文房具は文字を書いたり、事務作業をしたりするために用いますが、
人にお願いをするときに効果を発揮する文房具があるのです。
何だと思いますか?
それは「付箋」です
どういう風に使うか想像できますか?
付箋の効果を検証した実験があるのです。
調査に関するアンケートの依頼をする際に、①アンケートに付箋をつけてメッセージを書く、②アンケート自体に手書きのメッセージが書かれている、③アンケートだけを渡すという3つの条件を設定しました。
アンケートの返送率を測定しました。
その結果、①の条件では、75%以上の人が返送してきました(Garner, 2005)。
この背景には、「返報性」というものがあると説明されています。
返報性とは、恩を受けたら、それに報いなければならないという人の傾向です。
誰かに誕生日プレゼントをもらったら、相手の誕生日にはプレゼントあげなきゃなと思いませんか?
つまり、人にお願い事をしようとするときに、ただ単にそのものだけを渡すのではなく、渡すものに付箋をつけて、皆さんの言葉で依頼することに一言添えると相手が応じやすくなります。
試してみて下さい。
7月の心理学コラム:オンライン学会(担当:友野隆成)
2020/7/17 >> 役に立つ!!心理学コラム
新型コロナウィルスが猛威を振るい,前期の授業もオンラインとなってからはや2か月が経過しました。私も学生の皆さんと一緒に色々と試行錯誤しながら,何とかそれなりのスタイルを確立しつつあるように思います。
一方,コロナの影響は学会活動にも及び,今年度の学会大会は参加を予定していたものを含め軒並み来年度に延期されたり,オンライン開催となったりしています(私が準備委員を務めていた健康心理学会の大会も学会主催のバーチャル大会に変更となり,大会開催前に途中でお役御免になるという非常にレアなことになってしまいました。いくつか大会準備委員会企画シンポジウムの企画案のたたき台を作っていたのですが,準備委員会で議論することもなく全てお蔵入りになってしまったので残念です)。
これまでの対面での学会大会とは異なり,色々と不便なことも出てくるでしょうが,研究発表の中身自体が変わるわけではありませんし,寧ろオンラインによる恩恵もあるかと思いますので,このような状況になってしまった以上楽しんでオンライン開催の学会大会に臨みたいと考えています。これまでにオンライン授業で培った経験を活かして(!?),有意義な大会参加にしたいです。そのために,まずは抄録の原稿を仕上げねば(このコラム執筆時には,まだ半分くらいしかできていません。頑張ります)。