Archive for the ‘役に立つ!!心理学コラム’ Category
9月の心理学コラム:オンライン学会その2(担当:友野隆成)
2021/9/10 >> 役に立つ!!心理学コラム
昨年度のコラムでは,オンライン学会の話を取り上げましたが,準備までのところで終わっていました。今回はその続きで,先日開催された2つの学会大会に実際に参加した様子についてお話します。
1つ目は,7月下旬に開催されたICP(国際心理学会議)についてです。この学会は,4年に1度,オリンピックの開催年に開催されるもので,本来は2020年にチェコで開催されるはずでした。しかし,コロナ禍によって1年延期となり,オンライン開催となりました。私はZoomのブレークアウトセッションを使ってポスター発表を行いましたが,時間がある程度経過しても全く人が来ませんでした。その後,このまま誰も来ないのではないかと油断していた時に,突如として何人かの方が来られました(焦りました)。拙い英語でざっと研究を説明したところで時間切れとなり,ディスカッションをする前に強制終了となってしまいました(ブレークアウトセッションを使ったことのある方は,お分かりいただけるかと思います)。何ともあっけない幕切れでした。
2つ目は,9月上旬に開催された日本心理学会です。こちらはオンデマンド型のシンポジウムの企画(裏方)と,資料配信型のポスター発表を行ったのですが,ここでは後者についてお話します。こちらはICPとは異なり,決められた時間に発表するというかたちではなく,会期中に発表資料を配信し,コメントが来たらそれに対してリプライするという,テキストベースでの発表となりました。いつコメントが来るかわかりませんし,コメントが来てからリプライを返すまでにタイムラグが生じてしまうこともあり,これはこれで善し悪しだな,と思いました。
今回,2つの学会大会で2つの形式によって発表しましたが,自分が発表するときはやっぱり対面の方が良いなと思いました。自分の話を聴いてくださる方の顔が見えないと,イマイチ発表した気になりませんでしたので。その一方,自分が聴講するときはオンデマンドの動画視聴も有だと思いました。裏番組を気にせずに視聴したいものを視聴できますし,聴き取れなかった英語を繰り返し聴くこともできますので。コロナ禍の動向にもよりますが,今後は対面とオンラインのハイブリッド型の形式で学会大会が開催され,従来型の対面形式のみの大会はほとんどなくなっていくかもしれません。対面とオンラインの良いとこ取りで,学術交流が促進されると良いですね。
8月の心理学コラム: 「ドボ8」の不思議 (担当:佐々木隆之)
2021/8/30 >> 役に立つ!!心理学コラム
クラシック音楽を聴いていると,自然に歌詞が浮かんでくることがあります.ロッシーニのセビリアの理髪師序曲の「やめてけれ」やマーラーの交響曲第1番の「こがねむし」は有名なところです.これらは,似た音楽が存在していてその歌詞を連想させると解釈されます.ドボルザークの交響曲第8番(通称「ドボ8」)にも歌詞がぴったりはまる箇所があります.第1楽章の「進めー進めー」や第2楽章の「私やーよやーよ」です.これらには歌詞を連想させる音楽が存在しているわけではないのに日本語の歌詞が自然にわいてきます.ドボルザークの他の音楽にも同様の現象があるので,チェコ(ボヘミア)の音楽が日本の音楽や日本語と何か通じるところがあるのかもしれません.このことについては,別の機会に改めて考察したいと思います.
ちなみに,私が持っている大阪フィル山田一雄先生指揮の「ドボ8」は第1楽章が2小節短いという極めて珍しい演奏です.山田一雄先生と親しくお話しさせていただく機会があり,その演奏のことについて聞くことができました.第1楽章の途中にトロンボーンの短いソロパートがあるのですが,2小節早く吹いてしまったというのです.演奏会の後,当時大フィルの常任指揮者で音楽監督だった朝比奈隆先生が「うちの若い者が粗相をして大変申し訳ない」と謝っていたと伺いました.古き良き時代の大先生たちのエピソードを聞くことができてうれしかったことを思い出します.
もうすぐ後期が始まりますが,COVID19の感染状況により大学は少しの間遠隔授業となります.学生も教員も遠隔授業に少しずつ慣れてきていますが,対面の授業が一日も早く再開できるよう願っています.
7月の心理学コラム:『人づきあい、なぜ7つの秘訣?』(担当:木野和代)
2021/7/10 >> 役に立つ!!心理学コラム
今回は本を紹介します。この本は,心理学の知見にもとづいて、人づきあいの秘訣を7つ厳選して紹介するものです。皆さんは,7つ,何を思い浮かべますか?
第1章で紹介されているのは「あいさつ」です。
えっ,これが秘訣なの?と思った方も多いのではないでしょうか? 「おはよう」「こんにちは」「さようなら」「ありがとう」など、ふだん当たり前のように口にする言葉ですから,そんな反応も当然でしょう。
では,いつもこれらの言葉に気持ちを込めて相手に届けていますか?
「おはよう」というあいさつ一つをとっても,相手に対するどのような想いをこめた言葉なのかをこの本で確認して意識することで,きっと普段のあいさつがいつもよりも相手への思いやりを伝える交流となることでしょう。
この本で紹介される7つの秘訣は決して目新しいものではありませんが,具体的な行動の背後の気持ちや心構えを知ることができます。そして,これらの行動を自分からすることの重要性も説かれています。行動が「秘訣」となる鍵はそこにあるのではないでしょうか。
本学では,今年度は6月から対面での授業が始まりました。教室で授業を受けられるようになり,ともに学ぶ仲間・友人の大切さに改めて気がついた人も多いことでしょう。そうであれば,それを是非行動に表して伝えていきましょう。マスクで顔が半分隠れていると,伝わりにくいこともあります。相手の視点にも配慮しながら,自分の思いを伝えることを一人一人が心がけて,ますます気持ちのよいキャンパスにしていけるとよいですね。
6月の心理学コラム:『緑の季節について』(担当:森 康浩)
2021/6/21 >> 役に立つ!!心理学コラム
新緑の季節となりました。街のあちこちで緑が生い茂りとても気持ちがいい季節だと思います。特に定禅寺通りのケヤキ並木は四季折々の顔を見せますが、きれいな景観でとても好きな場所です。車で通る度に、歩いて散歩したいなといつも思います。
このような植物がある景観とリラックスには関係があることが、心理学的にも議論されているのです。
人の特徴として、勉強や仕事をしているときは意識的に対象に注意を向けて、そのことについて取り組むということをします。意識的に注意を向けているので時間が経過することで疲労もたまります。人には他の注意を向けるやり方があって、何気なく無意識的に何かをみるというものもあります。このように自然と向けられる自動的な注意をするときに回復をしようとします。自動的に向けられる注意を引くものの特徴として、魅力的なもの、広さを感じられるものがあります。自然や植物がある景観はこの特徴に合致するので、意識的に注意を向けているときに、ふと自然に注意がいくことでそれまでに感じていた疲労が回復するということになるのです。また、外科的手術をした後に病室から樹木のある景色が見える患者さんの方が、入院日数少なく、鎮痛剤の量も少ないということもわかっています。自然の景色を見るということはとても、いい効果があるので、皆さんも取り入れてみてください。私の研究室からも、中央芝生広場が見え、緑の季節を堪能しています。
5月の心理学コラム:映画の話し『ミッドナイトスワン』(担当:大橋智樹)
2021/5/26 >> 役に立つ!!心理学コラム
今回は、2020年の第44回日本アカデミー賞において最優秀作品賞と最優秀主演男優賞をW受賞した映画『ミッドナイトスワン』を紹介します。この映画は新宿で生きるトランスジェンダー女性(生物学的な性は男性だが自認する性は女性)と親からの虐待を受けていた親戚の女子中学生との同居生活を描く物語です。どちらも自分の居場所、生きる意味を見つけられず、社会の中に居場所がない共通点からか、お互いに通じ合うものを感じながら、徐々に心が通い合っていくが、、、この先は実際に映画を観てください。
この映画の主題はトランスジェンダーや虐待といった社会問題ですが、しかし、誰もが生きていく中で直面するであろう“生きにくさ”に重ねることができると思います。苦しみながら、もがきながら、なんとか前に進もうとし、しかし模索が結果として見つけたものを奪われたり、そんな経験があるのではないでしょうか。理解されずにもがいている人はたくさんいるのです。
この映画はそのような経験に希望の光を与えるものではありません。しかし、現実はハリウッド映画のようにバラ色のエンディングにつながるわけではない。でもそれでも生きねばならないし、その模索は続くのです。
主演の草彅剛と、女子中学生役の新人服部樹咲の演技が素晴らしい。スクリーンから伝わってくる登場人物の放つ空気に圧倒されたり、心を溶かされたり、一緒に胸が苦しくなったりします。ぜひ観てみてください。