Archive for the ‘役に立つ!!心理学コラム’ Category

10月の心理学コラム 自分の名前の認識にまつわる心理学~動物の心からヒトの心を考える~(担当:油尾聡子)

2013/10/9 >> 役に立つ!!心理学コラム

動物は自分の名前を認識できているのでしょうか。

私が毎日通るある場所には、3日に一回くらいの頻度で現れる猫がいます。その猫を見かけるようになってから、私は勝手に「にゃんたろう」と名前をつけてその猫を呼んでいました。そう呼ぶと、その猫はみゃーみゃー鳴いてくれます。その反応から、私は「そうかそうか君はにゃんたろうって言うんだね」などと勝手に解釈し、会話(?)を楽しんでいました。ところがある日、首輪にその猫の名前が書かれていることに気づきました。見てみると、そこには「にゃんごろう」と書かれているではありませんか!彼が鳴いていたのは、一字違いで自分の名前を呼ばれていると誤認したからなのか、「惜しいよ」と教えてくれていたからなのか、はたまた特に意味もなく鳴いていただけなのか、真相は定かではありません。

猫が自分の名前を認識しているかどうかはわかりませんが、動物の中でもチンパンジーは、自分の名前を認識できている可能性が以下の研究で指摘されています。林原類人猿研究センターで実施された研究によると、チンパンジーに自分の名前を聞かせると、自分以外の名前を聞かされたときに比べ、Ncと呼ばれる脳の部位の活動が変化したとのことです(Ueno, Hirata, Fuwa, Sugama, Kusunoki, Matsuda, Fukushima, Hiraki, Tomonaga, & Hasegawa, 2010)。

では、もう少し話を広げて、ヒトに関してはどうかを考えてみましょう。ヒトは2歳頃から鏡に映った自分を指して自分の名前を言えるようになります(Bertenthal & Fischer, 1978)。自分の名前を言語化できるようになるのが2歳頃ということですから、自分の名前が呼ばれていることを認識できるのはもっと早い時期かもしれません。これだけ発達の早期でヒトが自分の名前を認識できるのは、それだけヒトが他者との相互作用を重視しているからでしょう。

今回は、動物の心からヒトの心について考えてみました。私の専門の社会心理学では、主に成人を研究対象として、人が他者や社会といかに相互作用するかを研究しています。しかし、心理学では成人に限らず、子どもや動物、高齢者の心にも焦点を当てます。さまざまな対象に宿る心を考えると、今回のように何かヒントが得られるかもしれません。

写真は、本コラムのネタ提供にご協力いただいた「にゃんごろう」さんです(にゃんのため、いや、念のため、写真をぼかし気味にしています)。

引用文献

  • Bertenthal, B., & Fischer, K. W. (1978). Development of self-recognition in the infant. Developmental Psychology, 14, 44-50.
  • Ueno, A., Hirata, S., Fuwa, K., Sugama, K., Kusunoki, K., Matsuda, G., Fukushima, H., Hiraki, K., Tomonaga, M., & Hasegawa, T. (2010). Brain activity in an awake chimpanzee in response to the sound of her own name. Biology Letters, 6, 311-313.

8月の心理学コラム バイオロジカルモーション(担当:工藤敏巳)

2013/8/9 >> 役に立つ!!心理学コラム

私たちは顔の表情やからだの動きなどから相手の気持ちを読み取ってコミュニケーションを取っています。たとえば、話相手が歯をみせれば「笑っている」と感じ、眉間にしわを寄せれば、「怒っているのでは?」と感じます。それは顔の表情だけなく、からだの動きからも同じように感情を読み取ることができます。

G. Johanssonは30年も前に人の動きを表す点の動きから、その人が何をしているのか認識できることを発見しました。バイオロジカルモーションと言います。その後、そうした動きから性別や感情も読み取れることがわかってきました。

以下のサイトにデモがありますので、一度覗いてみてください。楽しめますよ。
http://www.biomotionlab.ca/Demos/BMLwalker.html

30年も前は暗い部屋で人の関節に豆電球をつけて撮影をしたようですが、現在ではkinectを使えば簡単にこのような映像を作成することができます。

以下は私のゼミで学生が作成したバイオロジカルモーションの映像です。
明らかにウキウキルンルンって感じですね。

YouTube Preview Image

7月の心理学コラム 映画の話し『ローマの休日』(担当:大橋智樹)

2013/7/10 >> 役に立つ!!心理学コラム

『ローマの休日』という映画があります。まだ無名だったオードリー・ヘップバーンが最優秀女優賞を獲得するなど、アカデミー賞3部門を獲得した名作です。

ヘップバーン演じる王女アンがローマ滞在中に城を抜け出し、アメリカ人の新聞記者ジョー(グレゴリー・ペック)と出会うという物語ですが、この映画を印象づけているのはラストのシーンです。ネタバレになるのでものすごく簡単に言うと、去って行ったアンが、戻ってくることを期待させるように、画面には通路だけが映り続けます。私には、この“通路の時間”がものすごく長く感じ、そこで一番ドキドキしました。戻ってきて欲しい、でも、戻ってきて欲しくない。そんな葛藤の時間です。

でも、結果を知ってしまっている2度目にはそんなに長く感じなくなります。最初、あれだけ長く感じた映画とは別の、短く編集された映画を観たような、そんな印象すら受けるでしょう。

人間にとって、時間はいつも平等には流れません。永遠に感じられる10秒があったかと思うと、一瞬に感じられる1時間があったりします。「心理的時間」などと呼ばれるこういった現象も、心理学の研究対象の1つです。

『ローマの休日』では、最初に観た時間の長さ、そして、2回目以降の短さを味わって「心理的時間」を感じてください。その楽しみを奪わないためにも、結果はナイショですよ。

 

6月の心理学コラム 絵画で学ぶ心理学(担当:木野和代)

2013/6/10 >> 役に立つ!!心理学コラム

宮城県美術館で「ゴッホ展」開幕。初日に館長・有川先生のご講演があったので拝聴して予習を。ゴッホの心の葛藤を作品を通して読み解く心理学的にも非常に興味深いお話でした。

その講演の中で紹介された,パリの画材屋兼画商『タンギー爺さん』の2つの肖像画。

一つはゴッホの作品。

浮世絵がパッチワークのようにちりばめられた明るい色彩の背景と,タンギー爺さんのリラックスした姿勢・画家に向ける温かな眼差しからは,人のいいおじさんという印象を受けます。

若い画家たちを応援しており,ゴッホもとてもお世話になっていたそうです。

もう一つは,タキシード姿のキリッとした紳士。確かな鑑定眼をもった画商の雰囲気が漂っています。

同じ時期に描かれた同じタンギー爺さんなのに,とても同じ人物とは思えません。

こちらの作品は,ゴッホではなくベルナールの手によるものでした。

ここで問題なのは,タンギー爺さんはどんな人だったのかということです。どちらかが間違っているのでしょうか?

そんなことはありませんよね。見る側の価値観やどんな状況でどんな関わりをしているかで違って見えてくることもあります。こんなことって日常生活にもありますが,120年以上前の絵画からも学べたことに感嘆! 有川先生のご期待通りのリアクションをした聴衆の一人だったことは間違いありません!

他者への評価や印象は,見る側の多くの認知的な処理を経て形成されます。

こうした問題は「対人認知」に関する心理学的研究で数多く扱われています。

ゴッホは,どんな物理世界を前にし,それをどのように認識したのか・・・そんなことを考えながら,とても興味深い展覧会鑑賞となりました。

5月の心理学コラム 心身相関と「ゆとり」 (担当:友野隆成)

2013/5/15 >> 役に立つ!!心理学コラム

ゴールデンウィーク明けに、風邪をひいてしまいました。ゴールデンウィークに少しだけ帰省したのですが、実家と仙台の温度差、久々の休みによる気の緩み、風邪をひいていた家族からうつされた、などなど、私が風邪をひいたのには色々な原因が考えられます。

風邪をひいて体の調子がすぐれないと、今度は心の調子も落ちてきます。“病は気から”の言葉が示しますように、健康心理学では心と体の密接な関係が重視されています(心身相関)。今の時期は、一時代前に「五月病」と呼ばれていたような症状(無気力・不安・抑うつなど)が出やすい時期なので、メンタル面の不調により体調を崩してしまう人もいれば、逆に私のように体調を崩してからメンタル面が落ちていく場合もあるでしょう。いずれにしましても、注意が必要です。

それでは、どのようにすれば、この負の連鎖を断ち切ることができるのでしょうか。万能な特効薬は恐らくないとは思いますが、可能性のあるものの一つとして「ゆとり」をもつことが挙げられるのではないかと思います。

以前、共同研究者のW先生の研究室へお伺いした時に、豆から挽いたコーヒーを出していただきました。私は今まではすぐに飲める缶コーヒーなどを飲んでいましたが、この時に「ゆとり」が重要だということにはたと気づきました。その後、とりあえずコーヒーメーカーを購入し、コーヒーを飲むのにひと手間掛けてみることにしました。それが、今は良い気分転換になっています(豆を挽くまでいっていないところが、中途半端ですが)。

…この原稿を書いていたら、何だか気分が上向いてきました。そうすると、心なしか体調も回復傾向になってきたような気がします。現在不調な方は、無理のない範囲で何か「ゆとり」を生活に取り入れてみると良いかもしれませんね。

写真は、研究室でコーヒーメーカーにコーヒーの粉を入れているところです。些細なことですが、「ゆとり」の獲得に一役買っています。