10月の心理学コラム:どんな言葉をかけるか?(担当:千葉陽子)
2022/10/18 >> 役に立つ!!心理学コラム
『青春って密』
2022年夏の甲子園で優勝した仙台育英高等学校の須江航監督の言葉です。青春を経験した誰もの心にスッと入り込む、言い得て妙とはまさにこのことでした。
もう一つ私の心に残った言葉がありました。『優しさは想像力』という言葉です。
「同じことを言っても、誰が言うか、いつ言うか、その聞く相手がどんな精神状態か、によって効果も変わる。こういったいろいろなことを考慮して話すべきだ」というものです。須江監督はこのことを部員に伝えつつ、自らも実践されているようです。
運動指導の心理学においてよく検討されるテーマの一つに『言葉がけ』があります。
練習・試合中に指導者が選手にどのような言葉かげをしているか、そしてそれが選手の有能感とどのように関連しているかを調べた研究があります。
研究対象者はサッカー選手の指導者A1名で、Aが指導するのは22名のユース世代の選手でした。表1は、試合1回と練習15回の言葉がけの頻度をビデオで記録し、指導者が選手を指導している場面を分析したものです。カテゴリの補足説明は以下の通りです。
・直接的:「〇〇、もっと広く、広がれ、広がれ」
・間接的:「〇〇はどうすんの?止まった方がいいの?」
・統制的:プレー外で「〇〇、あのマーカーいらない」
・親和的:プレー外で「〇〇、足痛い?大丈夫?」
・その他:「〇〇は、まぁいいや」など指導者の意図が明確に確認できなかったもの
この結果は、皆さんの目にどう映りましたか?私の印象ですと、意外性は特に感じられませんでした。しかし、特筆するのであれば、プレー中のポジティブな発言が多い一方、プレー外での親和的な発言が少ないという印象です。想像ですが、プレー中に積極的にポジティブな言葉がけをしようとする指導者の意図をかいまみることができます。本研究は、調査開始時と終了時に選手にサッカー有能感尺度の回答を求め、指導者の言葉がけがサッカーに関する有能感の変容に与える影響についても検討しました。その結果、「状況に応じたパス&ボールコントロール技能」と「ドリブル技能」に関する有能感が向上していたことが明らかとなりました。一方で、指導者からの否定や叱責と行った「ネガティブな評価」を受ける頻度が高い選手ほど、「守備技能」に関する有能感が低下する可能性が示唆されました。ただし、賞賛や励ましといったポジティブな評価さえ有能感の変容に影響を与えなかったようで、ユース世代の選手にとっては、指導者からの言葉がけ以外の要因が、自身のサッカー有能感を形成している可能性があるようです。
日々学生と対峙する教員として、自身の言葉がけは最近のテーマであったため、自身を見つめ直す良い機会となりました。想像力を働かせて日々を送っていきたいと思います。
【出典】安倍久貴・村瀬浩二・落合優・射手矢岬・鈴木直樹(2018)指導者の言葉がけがユース世代のサッカー有能感に与える影響. 体育学研究,63,87-102.