Archive for the ‘役に立つ!!心理学コラム’ Category
2月の心理学コラム:映画の話『すずめの戸締まり』(担当:大橋智樹)
2023/2/6 >> 役に立つ!!心理学コラム
新海誠監督の『すずめの戸締まり』を観ました。私にとって新海監督の映画は、『君の名は』(2016)、『天気の子』(2019)に続いて3作目の鑑賞となりますが、最高の作品だと感じました。
映画を観る前に知っていた情報は「東日本大震災について扱っている」ということだけでした。すずめが人の名前だということはもちろん、戸締まりが何を意味するかは物語の進行とともに分かってきました。
私にとって衝撃だったのは、「地震」を“みみず”として描いたことです。たくさんの命と財産が奪われる地震という自然現象を“みみず”というファンタジーで描く。その発想力に驚嘆しました。
心理学の技法に「投影法」があります。ロールシャッハ法と呼ばれる「インクの染みが何に見えるか答えてもらう」がその代表例といえます。偶然にできたインクの染みですから何に見えてもいいのです。何に見えなきゃいけないことも、何かに見えちゃいけないこともない。自由な発想で答えた内容に、その人の内面が“投影”されると考える、心を測るための技法のひとつです。東日本大震災という「起こったこと」を題材に、それを描くこともある種の投影法だと言えます。その意味で、映画には作り手の心理が色濃く反映されると言えるでしょう。
映画の中に出てくる「本当に大事な仕事は、人には見えない方がいい」という言葉が印象的でした。映画を通して、私たちがこの言葉を、表面的にしか理解していないことが突きつけられます。あとは本編を観てください。心に刺さる作品になると思います。
1月の心理学コラム:コロナ後にマスクを外すのか?(担当:木野和代)
2023/1/11 >> 役に立つ!!心理学コラム
2022年の新語・流行語大賞にもノミネートされた「顔パンツ」。3年に及ぶコロナ禍のマスク生活で、マスクを外すことに恥ずかしさを感じる心情を表現した言葉とのこと。
今年の木野ゼミの卒業研究には、まさにこのことに向き合おうとしたものがあります。最初は、マスクで顔を隠すことの安心感にだけ着目していましたが、文献調査などを経て、コロナ後もマスクを着け続ける人がどれくらいいるのか、その背景は何かを、状況要因と個人の特性要因から明らかにすることにしました。
ここでは、状況要因の結果についてのみ、少しご紹介します。
調査では、感染力の強さ、そして、周りの行動(何割がマスクを着けているか;記述的規範)など様々な条件によって、コロナ後にマスクをつけるのかどうかが異なるのかを尋ねました。同調圧力が強いと考えられる場面(就職面接)での回答を集計した結果が以下のグラフです。周りの9割の人々が着用していれば、9割以上の回答者が着用すると回答したのに対し、周りの着用が1割の場合は3~5割の人が着用すると回答しました。ここから、周りのマスク着用率が高いと、マスクを着ける傾向が高く、同調効果が起こっていることがわかります。しかし、周りに着用者が少なくても、着け続ける人がそれなりにいることがわかります。どういうことでしょうか? 研究に取り組んだ学生たちが、この結果をどのように考察するのか、完成した論文を読むのが楽しみです。
このほか、個人の特性要因との関連や実際の人々の行動観察など、結果の詳細は3月末に発刊予定の「心理行動科学科研究報告vol.13」(東北地区の図書館等に寄贈)でご報告します。ぜひご覧ください。
12月の心理学コラム:鶴岡でのポイ捨て抑制対策について(担当:森康浩)
2022/12/15 >> 役に立つ!!心理学コラム
現在、山形県鶴岡市の内川流域で、ごみのポイ捨て抑制のための取り組みを行っております。
河川へのポイ捨ては海ごみの一因ともいわれており、改善すべき問題です。
ポイ捨てが酷いところでそれを抑制するために「ポイ捨て禁止」といった看板を掲げることで対策を講じることが多く行われていますが、
なかなか効果がみられませんし、人は否定的な注意を目にすると反発しようとして、ポイ捨てをしてしまうこともあります。
さらに、ポイ捨てがある状況では、ほかの人も捨てているからとごみがごみを呼ぶ状況にもなってしまいます。
このようにポイ捨ての発生には、心理的なものが多く関わっています。
ここまでは、ポイ捨てをしてしまう方にフォーカスを当ててきましたが、ポイ捨てを減らす方にもフォーカスを当てると、まず重要になることはポイ捨てされている場所を誰かが管理し、人の存在がある状況にすることが重要です。ポイ捨ての対策をとして鳥居を置くことが行われていますが、鳥居を置くだけでは意味がなく、定期的に周辺の草刈りをすることや人通りを増やしてポイ捨てをしにくい環境を作ることが重要です。
今回鶴岡市では、ポイ捨てを抑制する取り組みとして休憩したい人が座れて風景を堪能できるベンチと川へのごみの流入を防ぐための受け皿としての期間限定で設置するごみ箱がポイ捨てを減らすためにどのような効果があるのかを検討しました。
鶴岡周辺で放送されているようですが、取り組みが動画になっているので、ご笑覧いただければと思います。
https://www.youtube.com/watch?v=YU4DCWOd9kg
11月の心理学コラム:コロナ禍と曖昧さ耐性(担当:友野隆成)
2022/11/11 >> 役に立つ!!心理学コラム
最近,コロナ陽性者がまた増えてきました。巷では第8波が始まるとか始まらないとか言われるようになりましたし,コロナ禍はいったいいつ終わるのでしょうか…。
このように先行き不透明なWithコロナ社会への適応には,私の研究テーマである「曖昧さ耐性」が重要な役割を果たすと考え,新型コロナウイルスに対する恐怖とどのような関連がみられるかを検討しました。①2回目の緊急事態宣言発令中の期間(2021年1月8日~2月7日)に,日本全国の18歳から86歳までのインターネットリサーチ会社登録モニターを対象として実施したweb調査(友野, 2021)では,曖昧さ耐性が高いほど新型コロナウイルスに対する恐怖の程度が低いことが示されました。また,同様のweb調査を②第5波収束の2021年11月中旬ごろと③第6波のまん延防止等重点措置解除直後の2022年3月下旬ごろに実施したところ,どちらの時点でもやはり曖昧さ耐性が高いほど新型コロナウイルスに対する恐怖は低く(友野, 2022),感染が拡大していても落ち着いていても曖昧さ耐性がWithコロナ社会への適応促進要因となりうる可能性が示されました。
これらの結果はある程度予測できていたことでしたが,②の調査で付加的に行った第6波の予測に関する質問に対する分析結果から,意外なことも分かりました。第6波が来るかどうかの予測を「第6波は来ず第5波で終息すると思う」「第5波よりも小さな第6波が来ると思う」「第5波よりも大きな第6波が来ると思う」「わからない」の4つの選択肢から1つ選んでもらい,曖昧さ耐性の高い人と低い人とでその回答傾向に違いがみられるかどうか,カイ二乗検定という統計手法を用いて検討してみました。その結果,有意に「第6波は来ず第5波で終息すると思う」人が曖昧さ耐性高群では多く,曖昧さ耐性低群では少ないという結果が示されたのです(表を参照。その他の組合せは,見かけ上人数の偏りがあるように見えるものもありましたが,いずれも有意ではありませんでした)。曖昧さ耐性の高い人は性急な判断をせず保留する傾向があるため,曖昧さ耐性の低い人と比べて「わからない」と回答するのではないかと考えていたのですが,寧ろ楽観的な判断を下す傾向があることが示されました。その後実際第6波はどうなりましたかと言いますと…皆さんご承知のとおりです。
以上のように,当初想定していた仮説とは異なる結果が得られたことから,頭だけで考えずに実際にデータを取って分析して一定の結論を出すことの重要性を,この付加的な分析を通じて再確認しました。また,このように想定したものとは異なる結果の背景にあるものを探究することが,心理学の面白さ・奥深さの1つでもあります。コロナ禍はいずれ終われども,曖昧さ耐性の研究はまだまだ終われません。
文献
友野 隆成(2021). 曖昧さ耐性と新型コロナウイルス恐怖の関連についての検討 日本心理学会第85回大会発表抄録集, 15.
友野 隆成(2022). 曖昧さ耐性はWithコロナ社会への適応促進要因となりうるか? 日本健康心理学会第35回大会プログラム,37.
10月の心理学コラム:どんな言葉をかけるか?(担当:千葉陽子)
2022/10/18 >> 役に立つ!!心理学コラム
『青春って密』
2022年夏の甲子園で優勝した仙台育英高等学校の須江航監督の言葉です。青春を経験した誰もの心にスッと入り込む、言い得て妙とはまさにこのことでした。
もう一つ私の心に残った言葉がありました。『優しさは想像力』という言葉です。
「同じことを言っても、誰が言うか、いつ言うか、その聞く相手がどんな精神状態か、によって効果も変わる。こういったいろいろなことを考慮して話すべきだ」というものです。須江監督はこのことを部員に伝えつつ、自らも実践されているようです。
運動指導の心理学においてよく検討されるテーマの一つに『言葉がけ』があります。
練習・試合中に指導者が選手にどのような言葉かげをしているか、そしてそれが選手の有能感とどのように関連しているかを調べた研究があります。
研究対象者はサッカー選手の指導者A1名で、Aが指導するのは22名のユース世代の選手でした。表1は、試合1回と練習15回の言葉がけの頻度をビデオで記録し、指導者が選手を指導している場面を分析したものです。カテゴリの補足説明は以下の通りです。
・直接的:「〇〇、もっと広く、広がれ、広がれ」
・間接的:「〇〇はどうすんの?止まった方がいいの?」
・統制的:プレー外で「〇〇、あのマーカーいらない」
・親和的:プレー外で「〇〇、足痛い?大丈夫?」
・その他:「〇〇は、まぁいいや」など指導者の意図が明確に確認できなかったもの
この結果は、皆さんの目にどう映りましたか?私の印象ですと、意外性は特に感じられませんでした。しかし、特筆するのであれば、プレー中のポジティブな発言が多い一方、プレー外での親和的な発言が少ないという印象です。想像ですが、プレー中に積極的にポジティブな言葉がけをしようとする指導者の意図をかいまみることができます。本研究は、調査開始時と終了時に選手にサッカー有能感尺度の回答を求め、指導者の言葉がけがサッカーに関する有能感の変容に与える影響についても検討しました。その結果、「状況に応じたパス&ボールコントロール技能」と「ドリブル技能」に関する有能感が向上していたことが明らかとなりました。一方で、指導者からの否定や叱責と行った「ネガティブな評価」を受ける頻度が高い選手ほど、「守備技能」に関する有能感が低下する可能性が示唆されました。ただし、賞賛や励ましといったポジティブな評価さえ有能感の変容に影響を与えなかったようで、ユース世代の選手にとっては、指導者からの言葉がけ以外の要因が、自身のサッカー有能感を形成している可能性があるようです。
日々学生と対峙する教員として、自身の言葉がけは最近のテーマであったため、自身を見つめ直す良い機会となりました。想像力を働かせて日々を送っていきたいと思います。
【出典】安倍久貴・村瀬浩二・落合優・射手矢岬・鈴木直樹(2018)指導者の言葉がけがユース世代のサッカー有能感に与える影響. 体育学研究,63,87-102.