Archive for the ‘役に立つ!!心理学コラム’ Category

10月の心理学コラム:お菓子で心理学実験(担当:木野和代)

2023/10/14 >> 役に立つ!!心理学コラム

中秋の名月。今年も美しかったですね。
お月見といえば、子どもの頃、私の地元では「月見泥棒」という風習がありました。泥棒というと物騒に聞こえるかもしれませんが、晩御飯を終えた頃、子どもたちがお月見のお供え物をいただきに、近所のお宅を回るという「行事」です。子どもが持っていきやすいように、玄関先に「お供え」(=お菓子)が置いてありました。
当時、私も友達と回りました。犬に注意を払ったり、門灯が消えていれば懐中電灯でのぞき込んだり、お菓子がなくなっているお宅にはピンポンしておねだりしたりしました。今では懐かしい思い出です。ハロウィンのTrick or Treatにも近いものかもしれません。
こうしたお菓子をめぐるやりとりで、子どもたちの社会性が養われていた側面もあるように思います。

ところで、お菓子を使った心理学の有名な実験はいくつかありますが、その一つが「マシュマロテスト」です。名前は「マシュマロ」となっていますが、実際には子どもが好きなお菓子を使います。
実験室で子どもに好きなお菓子を選んでもらい、目の前に置きます。子どもには「私(=実験者)は一度部屋を出るけれど、戻るまで一人で待てばそのお菓子が2個もらえます。でも、実験者を呼び戻したり、席を立ったり、お菓子を食べ始めたりしたら1個しかもらえません」と伝えて、実験者が退室します。
このとき子どもは目先の1個と少し待って2個のいずれを選ぶか、これを観察するのです。少し待って2個もらえれば、自制心があるというになります。
この方法を考案したW. Mischelは、このようなテストを使って欲求充足を先延ばしすることを可能にするのは何かを明らかにするための研究を数多く行っています。またいずれご紹介しますね。

2023年度大学祭にて:実行委員会企画「縁日」でのお菓子釣り。お菓子を得るためには、仕組みの理解、手の運動調整など様々な力が必要な遊びですね。

9月の心理学コラム:現場部の話し『JAL 123便墜落事故に学ぶ』(担当:大橋智樹)

2023/9/26 >> 役に立つ!!心理学コラム

9月1日、学生23人、教員4人で羽田空港の一角にあるJALの安全啓発センターを訪れました。目的は1985年8月12日に御巣鷹の尾根に墜落した日本航空123便の墜落事故に学ぶためです。この事故では520人の方の命が奪われ、そのご家族などたくさんの方が苦しみました。事故からそろそろ40年が経とうとしていますが、その年月の中でさまざまな心が変化し、一方で、さまざまな心が変わらないままです。心理学的な実践の学びが必ずある、そう考えて企画しました。

本来は前日に群馬県上野村にある墜落現場に慰霊登山をする予定だったのですが、残念ながら直前の大雨で土砂崩れが起き、登山は叶いませんでした。したがって、JALの安全啓発センターの見学と、遺族の集まりである8.12連絡会の事務局長・美谷島邦子さんの講和を伺いました。

学生たちは、センターに残る実物の期待の一部を見て、事故当時9歳だった息子さん、健くんを亡くした美谷島さんのお話を伺って、さまざまなことを考えたようでした。実際の現場に行き、自分の目で現場を見て、そして、生の声を聴く。その大切さを感じてくれる規格になったと思います。

安全啓発センターでの研修

美谷島さん講話

※「現場部」は,“心理学は,机の上だけでは学べない”という本学科のモットーを体現化した企画で,2014年度に当時の学生さんの希望で始まりました。さまざまな「現場」に足を運び,自分の目で見て,自分の耳で聞くなど五感をフル活用して現場を感じ,そこから心理学の学びを見出す企画です。これまでに,JAXA筑波宇宙センター,宮城県科学捜査研究所,松島水族館(現在は閉館),東北少年院,青葉女子学園,仙台鑑別所,新日鐵住金・安全体験教育プログラム,東北電力・女川原子力発電所などを訪れてきました。

 

 

8月の心理学コラム:ライトを照らすとごみが減る?(担当:森康浩)

2023/8/26 >> 役に立つ!!心理学コラム

現在、日本財団の「海と日本Project in Yamagata」の一環で、海ごみを減らす取り組みを行っております。なぜ心理学者が環境問題?と思う方もいるかもしれませんが、一人の人がある行動を行っていた場合、そういう行動をする人もいるんだなぁ~で終わります。しかし、多くの人がその行動を行っていたらどうなるでしょう?その行動が普通になります。いい行動であれば問題になりませんが、悪い行動であれば、どうにか対策をしなければならなくなってしまいます。このようなプロセスを仮定すると人々が作る社会的な状況の話になるので、社会心理学の領域の話となります。

海ごみは海で捨てられたごみだけではなく、街中でポイ捨てされたごみが風や雨水によって川などに運ばれ、細分化されてマイクロプラスチックの問題になります。去年も山形県鶴岡市の内川流域でポイ捨ての対策を行っていましたが、今年は郊外のスーパーで販売されている値引きされたお惣菜などが一つの袋にまとめられているごみが多くあることを踏まえて、薄暮時以降に効果がありそうな人感センサー付ライトや赤い回転灯などを使って、対策を行ってみました。するとポイ捨てされたごみが3分の1まで減りました。人の存在を感知してライトがつくだけで、ごみを捨ててはいけないという心理が働くようですね。

 

7月のコラム:学内業務と自己複雑性(担当:友野隆成)

2023/7/12 >> 役に立つ!!心理学コラム

昨年度のコラム で,私が学科長になった旨を書きました。しかし,元々の任期は1年であったため,昨年度末でお役御免となり,今年度から新たに大学院の研究科長となりました。その他,新たなお役目を今年度は複数お引き受けすることになりました。慣れないことも多々ありますが,日々勉強です。

ところで,心理学には自己複雑性(Linville, 1985)という概念があります。この概念の厳密な定義は,文字通り複雑です。ざっくり言いますと,①「自分のことを表わす特徴にいくつの側面があるか」と,②「それらの側面が互いに分化しているか」で,自己複雑性の高さが表わされます。ちなみに,自己複雑性が高い人は心身ともに健康であることも示されています(Linville, 1987)。

大学の業務に限定された話になってしまいますが,今年度の私に当てはめてみますと,①に関しては昨年度に比べてお役目の数が増えている(e.g. 研究科長,○○委員会座長,△△委員会委員,××委員会委員,その他諸々)一方で,②に関しては主観的にはあまり分化していないように思います(中身は違えども学内業務という共通点がありますので…)。よって,このコラムを執筆している時点での私の自己複雑性は,高くもなく低くもなくというところでしょうか。年度末までには各側面の分化度を高めて,自己複雑性を少しでも高くしたいものです。

文献
Linville, P. W. (1985). Self-complexity and affective extremity: Don’t put all of your eggs in one cognitive basket. Social Cognition, 3, 94-120.
Linville, P. W. (1987). Self-complexity as a cognitive buffer against stress-related illness and depression. Journal of Personality and Social Psychology, 52, 663-676.

 

今年度の私の自己概念イメージ(学内業務のみ)

6月の心理学コラム:食べることの心理学(担当:千葉陽子)

2023/6/27 >> 役に立つ!!心理学コラム

食べることが好きです。小学生の頃、給食で余ったヨーグルトのじゃんけん争奪戦で1週間勝ち続けたのは私です。

さて、皆さんは共食と孤食、個食という言葉をご存知ですか?私を例にすると、たとえ塾や部活動で遅く帰宅しても、必ずそばに誰かがいて会話しながら食事をする環境を両親が与えてくれていました(共食)。自分だけ家族とは別の食べ物を食べること(個食)は到底許されず、当時は窮屈さを感じていたものです。独り暮らしを始めた頃は、アパートで一人(孤食)でご飯を食べなければならず、全然味がしないもんだと戸惑ったものです。現在は、共食、孤食それぞれの良さを知り、美味しいという感覚に違いはなくなりました。共食は「何を食べるかよりも誰と食べるか」が大事と思いつつも、でもやっぱり根が食いしん坊なのでせっせと美味しそうなお店を探し、提案しています。

従来の研究では、孤食よりも共食時の方が美味しさの評価が高いといわれています。食べ物自体への評価というより、共食者との会話といった相互性の程度が重要ということが明らかになっています。また、摂食量については、共食により増加し、孤食よりも栄養摂取面において望ましい食事になるという結果が示されています1)。確かに、色んな料理をオーダーして皆でシェアできるのが、共食の醍醐味ですね。

スマホを見ながら食事をしていませんか?ながら食べは唾液や消化酵素の分泌がされにくく、健康への悪影響が懸念されています。お腹も心も満たされる食事をしたいものです。

写真は、最近食べたかき氷(マサラチャイ、瀬戸内レモンミルク、あんず麦茶しるこ)です。

1) 山中祥子・長谷川智子・坂井信之(2016). だれかと食べるとたくさん食べる?だれかと食べるとおいしい? 行動科学, 54(2) 101-109.