2月の心理学コラム(担当:高田利武)

2012/2/10 >> 役に立つ!!心理学コラム

「甘え」と別れ

日本人の心のあり方を解き明かす鍵概念の1つである「甘え」(土居,
1971)は、母親と共生する乳児の感情に由来するもので、他者と情緒的に一体化しようとする心理です。人間は本来、一人一人が個別の存在であることを考えるなら、「甘え」は自他の分離の事実それ自体を心理的に否定しようとするものです。
個々人が独自の存在である以上、それぞれが別の道を歩むことによる「別れ」は、仮令どんなに親密な間柄であろうとも必然だと言えます。これは私の偏見に過ぎませんが、「甘え」の心理が濃厚である日本人にとって、「別れと言えば昔よりこの人の世の常なるを…」という具合に、「別れ」はとりわけ情緒をくすぐるのかも知れません。
さて、例によって鉄道ですが、私は写真のような2つの線路が分かれる情景に心惹かれます。分岐駅から一緒に走ってきた列車が、ここでそれぞれ別の目的地に向かう様子が、人生での別れにも通じるように思えるからです。1960年代、秋田駅を午前8時10分に同時発車した2本の特急が、分岐点で互いに別れを惜しむように警笛を鳴らし、一方(つばさ)は奥羽本線を上野へ、もう一方(白鳥)は羽越本線で大阪へ向かう様子は、鉄道ファンの間で有名でした。
ところで私こと、心理行動科学科の発足以来5年間、皆さんとともに走ってきましたが、この3月でお別れです。皆さんは右側の本線を未来に向かって驀進して下さい。私は左の支線で山奥へ向かいます。では皆さんさようなら。随分ご機嫌よう。

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