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10月のロンドン日記
 
イギリスの秋は美しい季節です。街路樹の葉が色づき、落ち葉が舞い、リスが冬支度に走り回り、つがいのブラックバードが木の実をつつきます。一幅の絵のような風景に、鮮やかな赤や大人びた黄色、やや陰のある緑の木の葉、控えめな青空に銀色の雲、太陽のやわらかな光を乗せて、イギリスの秋は、静かに、長く暗い冬を迎える準備を整えていきます。薔薇の花が鮮やかに香る5月も美しいのですが、秋のこの時期の風景は、しん、と心に響きます。
 
 
 ロンドンに7年間暮らした後、2000年春に仙台に赴任しました。知る人もない初めての土地でしたが、定禅寺通の街路樹や街の空気がどことなくロンドンと似た印象で、とても親しみを覚えました。実際に暮らしてみると、それまで暮らしたどの街とも違って、新たな異文化体験の連続でしたが。いまだ解決されていない「雪が積もると滑って歩けない問題」を除けば、仙台の空気に肌が馴染むのに、時間はかかりませんでした。

 
 27歳で初めてロンドンに渡ったときも、やはり知る人一人としてないところから、ひとつずつ道を切り開いていきました。個人情報のいっぱいつまった書類一式紛失して「sorry!! 」で済ませるオフィスワーク、電車は遅れてあたりまえ、銀行は平然と金額を間違えるし、業者に依頼したことは半分できてくれば上出来、これでどうやって世界に冠たるロンドン市場が動いているのかと思うほどのいい加減さは、同時に、扉は少し強く押せば開くという柔軟性も含んでいます。極東から素手でやって来た私にさえも、的確に求めさえすればチャンスは与えられました。7年間、私はそんなロンドンの空気を生き生きと呼吸し、その恩恵と皺寄せをたっぷり味わいました。


 そして、先月から、2度目のロンドン暮らしです。最初の1ヶ月は復習期間でした。13年来のつきあいのナショナル・ウェストミンスター銀行が、私の残金わずかな口座に3重のミスを重ねてくれた時にはさすがに切れそうになりましたが、そうそう、この国はそうだった、と、「こちら側もリラックスしてゆるめる」構えを思い出してみれば、仕方ない、天気もいいことだし、と思えてしまうから不思議です。暖房の修理業者が約束の時間通りに現れた時には驚いて思わず褒め倒し、ピアノの調律師が時間のほとんどをジャズを弾いて遊んでいるのを余裕で聞き流し、砂漠で免許取ったのかと突っ込みたくなるほど危険走行する車の流れに自分もしっかり強引に割り込み、今はすっかり以前の調子を取り戻しています。この調子で半年後に、規律正しき日本社会に復帰できるのか少々不安ですが、また新たに異文化になじむつもりで新鮮にやればいいか・・・


 この「日記」は音楽科のHP管理者からの、ありがたいご指名で書き始めました。せっかくの機会ですので、ロンドンの音楽事情や私の研究についても、追々に触れられればいいなと思っています。仙台の街路樹もこれから美しく色づいてくることでしょう。宮城学院女子大学音楽科HPをご覧の皆さんおひとりおひとりが、実り多きよい秋を過ごされますように。

2005年10月
なかにしあかね