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ホーム > 宮城学院の機関 > キリスト教センター > ガブリエル・ロワール(解説)

敬虔なカトリック信者の家に生まれたガブリエル・ロワールは、絵心ある多感な少年時代からすでに、画家を志しました。
10代で、教会建築のステンドグラスに魅せられ、ステンドグラス職人として生涯を送る決意をしました。

深みのある「シャルトル・ブルー」で知られるシャルトルの地が、作家としての彼の生涯の本拠地となります。


2センチ以上ある厚いガラスを専用のハンマーで叩いて形を切り出す、ダル・ド・ヴェール(「ガラスの舗石」の意)のステンドグラス。ガブリエルは、どんな種類のステンドグラスも手がけましたが、とりわけこの手法を愛しました。 1920年代から1930年代にかけて、ステンドグラス職人としてアトリエ・ロランにて研鑽を積みます。ことにダル・ド・ヴェールでの表現に磨きをかけます。 1936年、いよいよ独立して自らのアトリエを持とうとしたガブリエルでしたが、寡占市場ゆえ、1946年までの10年間にわたり、ステンドグラス業者としての開業を待たねばならなくなりました。

しかし、カトリック教会関係者からの篤い信頼と、作家としての腕の確かさ、器用さ、そして生来の明るく楽天的な気性が、彼の窮地を救うこととなるのです。

ステンドグラス作りを封印させられた10年の間、彼は教会のフレスコ画家として、または教会の調度品を設計から制作まで手がける内装デザイナーとして、また、印刷物などを手がけるイラストレーターとして、あらゆる仕事を受注し、子だくさんの一家の大黒柱としてのつとめを無事果たし続けました。

この10年間に彼が作った印刷物には様々なものがありますが、子供向けのものが非常に多いのが印象的です。

クリッペ(イエス誕生の場面にまつわる人々をかたどった人形コレクション)を買うように子供にせがまれる親たちも、この紙製クリッペになら手が届いたのではないでしょうか。

紙で作られた聖書の人物を自分のハサミで切り出しながら、子供たちはアドベントの時期を楽しみ、聖書の物語を吸収したことでしょう。

絵本づくりもガブリエルの好きな仕事の一つでした。


息子のジャック・ロワールは、父親ガブリエル作の『不思議な夜』について、「父が何度もこれを読み聞かせてくれたせいで、ロワール家の子供たちはみな、孫の代まで、このお話の隅々まで覚えてしまっています」と語っています。

どんな仕事も、それをつらい義務として引き受けるのではなく、むしろ自らの楽しみとして引き受けていたガブリエルの人柄が推し量られるエピソードです。そして、表現することそのものを愛するこの姿勢は、絵本づくりからステンドグラス作りまで一貫していました。


第二次世界大戦が終わると、爆撃により痛めつけられた街を歩き回り、スケッチし続けました。とりわけ、廃墟と化したシャルトルの街を、彼は丁寧に、そして大量に、クロッキーで描き取っています。そして、満を持してステンドグラス職人として活動再開がかなった1946年、彼はフランス各地の宗教建築のために、ダル・ド・ヴェールのステンドグラスを次々に制作していきます。

このフランスでの仕事が評判を呼びました。作品としての完成度に加えて、爆撃により崩壊した宗教建築の再建が、石ではなくセメントによらねばならなかったことが、やはりセメントを使って仕上げるダル・ド・ヴェール手法によるステンドグラスの評判を後押ししました。

その後ヨーロッパ各地、アフリカ北部、アメリカ、日本など、世界中から注文が続くこととなります。
日本のミッション系の学校には、ロワールのステンドグラスの入った建物のある学校がかなりあります。
また、一般民家などにも、数多くの作品を制作しています。
さらには、ユダヤ教のシナゴーグにも、作品をおさめています。

1970年代後半、アトリエの経営を息子のジャック・ロワールに譲り、ガブリエルはいよいよ、自らの自由な表現活動に没頭していきます。

常にあらゆる主題に興味を持ったガブリエルが、とりわけ晩年に力を注いだテーマはおそらく二つ。ひとつは道化のテーマ、もうひとつが、聖書の「創世記」第一章、すなわち天地創造のテーマです。

ステンドグラスは、その材質においても生産性においても、またビジネスとしても、制作のための物理的要件が「制約的」「限定的」な表現方法です。
しかし、作品において、表現の主題と光とが融合するのは、その制約のゆえでもあるでしょう。
敬虔なキリスト者であり稀代のステンドグラス職人であった彼が、「光あれ」ではじまる「天地創造」のテーマを晩年のライフワークとしたのはむしろ当然だったかもしれません。
晩年の油彩画をみると、テーマそのものを描くよりも、テーマを介して光を描き出すことに力を注いでいることがわかります。



1996年、彼は「光あれ」のテーマを追い求め続けながら、天に召されました。
天地創造
心をかき乱し 心を穏やかにする 奇跡
生きとし生けるものの 再生
単一性のなかの多様性ということ
光への 愛の うた
(ガブリエル・ロワール絶筆より)



※本サイトの図版は、ガブリエル・ロワールの著作権を管理するアトリエ・ロワールより、特別に許可を受けて掲載するものです。転載はご遠慮下さい。
Un grand merci à Jacques Loire et à l’Atelier Loire pour l’aimable autorisation de reproduction de quelques images imprimées dans l’ouvrage suivant : Gabriel Loire. L’oeuvre d’une vie (1904-1996), Paris, Somogy éditions d’art, 2004.