葉80号


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文学旅行
山形・秋田
 十一月二十三日から二十五日までの三日間、山形・秋田へ文学旅行に行ってきました。参加者は日本文学科の一年生から四年生までの十九名と伊狩弘先生です。今回は「藤沢周平の原風景を訪ねる」をテーマに掲げ、旅をしてきました。
 まず一日目は、山形県の注連寺(ちゅうれんじ)と鶴岡市内を見学しました。注連寺は森敦(もりあつし)の芥川賞を受賞した小説『月山』の舞台として知られているお寺です。森はこの寺でひと冬を過ごしました。実際、森が滞在していた場所や直筆の書なども見ることができ、森敦を身近に感じることができます。また、お寺の住職さんのお話がとても興味深いもので、本堂の寒さを忘れるほどでした。お話だけでなく、ここでは即身仏(ミイラ)や、多くの画家の天井画も見ることができました。鶴岡市内では観光協会の方にガイドをしていただきながら見学しました。ガイドの方の熱心なお話はとても面白く、終始興味を持って聞くことができました。ここでは、庄内藩校致道館(ちどうかん)、丙(へい)申堂(しんどう)、鶴岡カトリック教会天主堂、鶴岡公園、大宝館を見学しました。庄内藩校の致道館は『義民が駆ける』の背景にあります。藩校に通う子供たちの時間割などの資料が豊富にあり、当時の様子を窺うことができました。豪商、旧風間家宅丙申堂は『蝉しぐれ』の映画の撮影に使われた所でもあります。珍しい石置屋根(板葺きの屋根にびっしりと石が敷き詰められている屋根)や庭園は美しく、ずっと滞在していたいと感じるほどでした。『花のあと』の舞台である鶴岡公園では、鶴岡市出身の中田喜直の「雪の降る町を」が流れるモニュメントがありました。大宝館には秋田、鶴岡の発展に深い関わりのある人物の資料が展示してありました。他にも、街角に高山樗牛(たかやまちょぎゅう)の石像が立っていたりもし、日本文学科生にとって、とても興味深い街でした。夜は「湯野浜温泉・愉海亭みやじま」に宿泊しました。
 二日目は松ヶ丘開墾場のオープンセットを見学しました。開墾記念館は旧庄内藩二千人が刀を鍬に持ち変えて開墾したという、歴史を資料と共に知ることができます。また、庄内映画資料館には、映画『蝉しぐれ』の資料が所狭しと展示されていました。架空の海坂藩の背景にある、実在する庄内藩の資料を通し、映画と庄内の関係の理解を深めることができました。こちらには昨年公開された映画『ジャンゴ』の資料や衣装なども展示されており、そちらも見所満載でした。オープンセットでの気分はもう、主人公かヒロインといったところでしょうか。儚く淡い、そして切ない恋の物語を思い出して、私たちはこのオープンセットを後にしました。この日は秋田県の秋の宮に泊まりました。夕飯は秋田名物「きりたんぽ鍋」でした。
 三日目は角館に行きました。紅葉と雪の同居する城下町の景色がとても美しく、また、街のあちらこちらに歴史が生きていることを感じさせられました。伝承館、平福記念美術館、新潮社記念文学館では、お馴染みのパンダのキャラクターのお話や、文豪たちの軌跡を辿り、ライブラリーに置いてある本に触れ、目でも耳でも堪能しました。石黒家(武家屋敷)ではガイドさんのお話に聞き入りました。こちらのガイドさんも実に熱心に説明してくださり、私たちもメモを取りながら、真剣に聞くことができました。二泊三日の旅行は内容の濃いものだったと思います。
 一日目、二日目は雪がちらつき、日本海の冬の厳しさを体感したりもしましたが、三日目は天候にも恵まれ、楽しい旅行で終わることができました。
 次回の文学旅行も只今企画中ですので、今回参加した人も、そうでない人も、ぜひ一度参加して、楽しい旅の思い出を作ってみてはいかがでしょうか。 (岩)
身体表現研究T
ミュージカル
 九月三日から十一日にかけて行われた「身体表現研究T」の連続講義では、SCSミュージカル研究所の梶賀千鶴子先生とアシスタントとして深澤昌夫先生に教えていただきました。 講義の内容は基礎のストレッチや早口ことばを利用した発声練習を行った後、振り付けの作成や歌の練習、セリフ合わせなどを行うというものでした。
 今回のミュージカルの演目は、大正十三年十二月に出版された宮沢賢治の童話集『注文の多い料理店』より梶賀先生が脚色した《水仙(すいせん)月(づき)の四日》というお話で、赤い毛布(けっと)の少女と雪を降らせることの出来る雪(ゆき)童子(わらし)の二人を主人公としています。演目名にもなっている《水仙月の四日》は、雪(ゆき)婆(ば)んごの命令で雪童子たちが大雪を降らせる日です。しかし、雪童子たちが大雪を降らせている中に、村へ帰る途中の赤い毛布をかぶった少女がいました。それに気付いた一人の雪童子が、雪婆んごの目を盗んでその少女の命を助けるという内容です。
 また、ミュージカルの中で私達が歌った、演目と同名の「水仙月の四日」、そして「カリメラ」は、二曲とも梶賀先生が作詞、SCSミュージカル研究所の廣瀬(ひろせ)純(じゅん)さんが作曲を手掛けられました。講義当初は、ミュージカル初体験の人が大半だったため、発声練習や特にステップの練習に苦戦を強いられましたが、日が経つにつれて、段々と発声練習の声も大きくなり、ダンスも皆の動きが合うようになっていきました。しかし、発表会直前、全体の流れを確認する大事な講義の日に、台風のために交通がマヒして何人か来られないという出来事もありました。講義最終日の十一日の発表会では、SCSミュージカル研究所の方々に協力していただき、それまでの練習の成果を発表しました。また、後日行われた発表会の録画映像の上映会では、自分達の演じている姿を見る事が出来ました。約一週間という短い期間でしたが、満足のいくものが出来上がったと思います。また、それまで話をしたことのなかった人とも親しくなれ、皆一体となって楽しめた一週間でした。 (及)

「人間・芥川龍之介」
− 仙台文学館を訪れて −
 芥川龍之介、と聞いたら芥川賞というイメージがあります。彼は日本を代表する文豪で、その作品は今もなお、多くの人に読み継がれています。
 私にとって芥川作品といえば『羅生門』です。作中でもっとも有名な一文「下人の行方は誰も知らない」。こんなにもシンプルでメッセージ性の高い表現は、彼にしかできないのではないでしょうか。まさしく文豪という称号にふさわしい人物です。
  今回、六月に日本文学科の一年生は「日本文学基礎演習A」という授業の一貫として仙台文学館を訪れました。そこでは「人間・芥川龍之介展」が開催され、館内にはパネルや遺品などが数多く展示されていました。私たちは彼の軌跡を辿ることによって、文豪という堅苦しいイメージばかりではなく、実はとても人間味あふれ、親しみやすい人物であったのだということに気付かされました。そのことを私にもっとも印象付けたのは龍之介自身が映る、家族団欒のホームビデオでした。
 映像には木登りを楽しみ、子供と戯れ微笑む龍之介の姿が納められていました。その表情はごくありふれた優しい父親の顔で、本当に幸せそうな表情でした。フィルムが白黒というのも手伝っているからか、その当時の雰囲気までがリアルに伝わってきて、龍之介自身の素の部分を垣間見ることができたような気がしました。文豪という硬い殻を脱ぎ捨てた彼もまた、ただの一人の人間であったのだなと認識させられた瞬間でした。
 やはり作品から得た知識だけでは、一つの概念だけで凝り固まってしまいがちです。新たな発見を見出す為には、実際にこのような展示物を目で見て確かめ触れてみることが大切だ、と改めて感じたひと時でした。       (遠)


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