File No.24  佐藤 恵理 さん

  年齢  20代
  在学中の専攻 ピアノ  

大学1年生の頃は、常に緊張していたように思います。頑張ろうという気持ちと、思うようにいかない現実とのギャップに悩んでいた時期もありました。音楽は決して競争ではないのですけれど、正直なところ、競争意識もありました。自分の殻が破れたのは、“自分の音楽を聴いてほしい”、“音楽ができることの幸せ”を感じるようになってからです。

とても楽しかった思い出は2000年9月の、大学設置50周年記念の「オペラ公演」です。舞台が成功するためには、目には見えないところでいくつもの努力があることを学び、学年を超えて、みんなで力をひとつにして、ものを創る楽しさを味わい、共有できた貴重な経験でした。


現在、私はフランスの大学で音楽学を学びながら、ピアノの勉強を続けています。

3月にサロンコンサートに出演し、30数名の聴衆の前で約1時間のプログラムを演奏しました。演奏の後にはビュッフェ形式のパーティーで会話を楽しみながら、聴きに来てくださった他のピアニストの方たちの即興演奏に耳を傾け、歌とのデュオを楽しみ、とても素敵なひとときを過ごしました。

このコンサートを企画、実現してくださったのがフランス人の声楽家の方で、私が最もお世話になっている人であり、また“フランスの母”と慕っている人でもあります。初めは意志の疎通が難しく、大変な苦労がありましたが、徐々に本当の意味でのコミュニケーションができるようになりました。彼女のお蔭でフランスの生活スタイルや食習慣を知り、音楽や文学、映画などの文化においても様々な発見をすることができました。

また、彼女を通じてたくさんの知り合いができました。お友達を紹介される毎に「何か1曲・・・」と頼まれることが多いので、自然と人前でピアノを弾く機会も多くなりました。このようにして知り合った方の1人が、6月に開かれるサロンコンサートのピアニストとして、私を推薦して下さり、私自身、とても楽しみにしているところです。


そもそも、私がフランスへ留学しようと思ったきっかけは、大学3年次に受講した「音声学」でした。それまでは「Bonjour」「Merci」ぐらいしか知らなかった私でしたが、フランス人の先生に出会い、フランス語に触れ、フランス音楽を学び、自分の知らなかった世界を少し覗いたような感じがしました。それから間もなく、フランス語を勉強し始め、興味はますます深くなっていきました。「留学」という2文字はそれまでも私の頭の片隅に夢のようにぷかぷかと浮かんでいたのですが、それが自分の進路として現実味を帯びてきたのは、このような経緯からでした。

その後、師事を仰ぐ先生のレッスンを受けるため、夏期講習会に参加し、その先生が勤めていらっしゃるリヨン国立高等音楽院を受験する決心をしました。

しかし、現実は想像以上に厳しく、一昨年は約17倍、昨年は約27倍という狭き門を突破することはできませんでした。それでも尊敬する先生のもとでピアノを学びたいという強い想いがあったので、昨年は語学学校、今年はリュミエールリヨン第2大学音楽学科の学生として籍を置き、プライベート・レッスンを受けながら勉強を続けています。

大学での勉強とピアノの両立は、正直なところ難しいです。初めの頃は大学生活に慣れるのに精一杯で、思うように練習時間が取れず、どうしようもないほどストレスが溜まってしまったこともありました。しかし、授業の進め方や勉強方法など、日本とは少し違う講義を受講していることを今はとても楽しいと思います。

フランスの人は自己主張が上手で、積極的です。日常ではもちろん、授業の中でもそれは感じられます。“人がどう思うか”ではなく、“「自分は」こうしたい”という意思をいつもはっきり持っていて、素直に表現します。それは自然と演奏にも反映される訳で、とても大切なことだと思います。以前は人と違っていることを少し恥ずかしいと感じていましたが、今はもしそういう点が自分に見つけられたとしたら、それは利点だと感じます。


私の留学生活は、日本で思い描いていたものとはまったく違う形のものになりました。挫折感を味わい、不安で心細くなってしまう時もありました。平坦な道よりも、砂利道を選んで歩いているような気もします。でも、それを後悔しないのは、すべて自分で選んだものだからです。転ぶことは決して悪いことではありません。転んだら起き方を覚えます。「どこで学ぶか」ではなく、「何を学ぶか」が重要だと考え、勉強を続けています。

このような貴重な経験が出来るのは、私を支えてくださるたくさんの方々のお蔭です。日本でもフランスでも本当に多くの方がいろいろな形で私を励まし、応援してくださって心から感謝しています。

留学を決めたときはフランスに知り合いの方もいませんでしたので、色々と心細かったものです。私が人からいただいた暖かい気持ちや、いろいろな情報を他の人に伝え、それがバトンのようにつながっていけたなら、と願っています。


在学生のみなさんへ・・・

今まで出会った人、これから出会う人、様々な人との出会いを大切にしてください。時間もチャンスも待ってはくれません。失敗を恐れずに、ぜひチャレンジしてください。そして何よりもまずあなた自身が楽しんでください。

  もどる・・・