今日もひとつ 2007年4月 |
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新年度ですね!3月で年度が終わり、これから始まる新生活に胸を膨らませている方々にも、いよいよ正念場を迎える人々にも、特に変わらず淡々と春を通過する方にも、健康で実り多き一年となりますように! |
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このシリーズは、11年前から続けているもので、毎年さまざまな角度から英国歌曲をご紹介しています。始めた当初は英国歌曲の存在そのものが全く知られておらず、「それ何?」という反応もしばしば。そもそも15年前に最初にイギリスに留学した当時も、「音楽の都はウィーンでしょう。(何時代の話やっ?!)なんでイギリスに?」などと言われたこともあったくらいでしたから、無理もないことです。また、英国歌曲を歌うときの英語は、日本人が一般に親しんでいるアメリカ語とはもちろん発音がかなり違いますし、さらにそれをクラシックの発声に乗せるにあたっての工夫が要ります。最近はNHKのアナウンサーでさえ日本語の正しい発音ができていない、と苦い顔をする方もおられますが、日本人なら誰でも美しく日本歌曲が歌えるわけではないのと同じことで、要は、そのことばを歌うということを、客観的に、具体的に、どれだけ誠実に真摯に研究したか、ということなのだと思います。英語は日本人にとって最も身近な外国語であるだけに、そういうことをひとつひとつ理解して頂くには、大変なエネルギーを要しました。その中で、作曲家も演奏曲目も、知った名前のひとつもないプログラムのコンサートのチケットを買ってくれるお客様おひとりおひとりが、なんと暖かくありがたかったことか!現実は予想以上に厳しかったにもかかわらず、不思議と、めげるという発想はまったく起きず、むしろやればやるほど英国歌曲の魅力の奥深さにはまって行き、5回目を過ぎたあたりからようやく、英国歌曲というものがひとつの分野として知って頂けるようになったと感じました。もちろんそれは私達の力だけで為し得ることではなく、日本の声楽専門教育の現場でもそれまであまり重視されて来なかった英語歌唱が見直され、研究する人や歌う人も増え、日本の主要オーケストラや音楽祭でイギリス音楽がとりあげられる機会が少しずつ増えてきた流れの隅っこに、私達のささやかなこのシリーズがあったということです。 音楽の真の都はどこか?と聞かれたら、私なら迷わず「ロンドン!」と答えます。確かに、イタリアが、ウィーンが、パリが、音楽の新たな潮流を生み出す中心地となった時代がそれぞれにあり、今もその流れを汲んだ活発な活動はそれぞれに行われています。しかし、貧困に喘ぐベートーヴェンに手を差し伸べ、経済的に支え、第九交響曲を生ませたのはウィーンではなくロンドンだったことをご存知でしょうか?ロンドンの大英図書館のギャラリーには、第九の自筆譜がイギリスの財産として展示されているのを見ることができます。ヘンデル、モーツァルト、ハイドンを筆頭に、ヨーロッパの名だたる作曲家達は、「世界的成功」を求めてイギリスへ渡り、チャンスをつかんだのです。イギリスは、世界各国の音楽を輸入し、盛り立て、音楽史が今ある形に生成するのに大きく貢献してきました。そして今も、貢献し続けています。今回の「第11回英国歌曲展」のテーマ《英国歌曲のグローバリズム》は、ハイドンの英語歌曲、ブリテンのドイツ語歌曲など、イギリスならではのクロスオーバーを広い意味での英国歌曲の可能性ととらえ、そのグローバルな魅力を探ろうというプログラム構成になっています。 |
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まずことばがあります。そのことばを生んだ背景としての社会があり、文化があり、歴史があります。ことばを紡いだ詩人の全人格がそこに投入されています。作曲家はそのことばに、全人格をかけて対峙します。その結実としての「うた」なのです。うたをうたうということは、それらを豊かにたたえた土壌の上に、今度は演奏家の全人格をかけた根をしっかりおろすということだと思います。単に表面的に発音を整えるとか、ピアノと歌の音量のバランスを調整するとか、そういう個々の要素が正しいとか間違っているとか、そういうことではないのです。うたをうたうということは、もっと総合的な、本質的なものであり、人から人へ大事なものを手渡しするような作業です。 |
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イギリスと英国歌曲についてこれだけ熱弁した後ではありますが、最終的には、お客様は英国歌曲を聴いたのでも、英語歌唱のお手本を聴いたのでも、デュオ・ワークのモデルを聴いたのでもなく、私達の「うた」を聴いて下さったのだ、と、そんなうたをめざしています。そんなうたを、どうぞ聴きにいらっしゃいませんか? |
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最後のおまけになってしまって恐縮ですが、下記のコンサートもあります。 「宮城学院女子大学音楽科スタッフコンサート Giardino della Musica X」 2007年5月1日(火)19:00 仙台市青年文化センター *詳細は音楽科HPで なかにしは、布田庸子先生の伴奏で、フォーレの歌曲を6曲演奏します。歌手布田庸子の渾身の「うた」、心が震えますよ! |
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2007年4月 なかにしあかね |
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