今日もひとつ 2007年1月

「今日もひとつ」2006年6月版を読んで下さった皆様ありがとうございました。お寄せ頂くあたたかい感想が、次第に、あれは”連載”ではないのか?! とのお問い合わせに変わり、やがて呆れられて誰にも声をかけられなくなり・・・そして年が明けてしまった・・・


卒業を控えて4年生達は学生生活を名残惜しんでいる。たぶん、多くの学生にとって、社会に出て一番の変化は、人生のすべての時間を自分でコントロールしなければならないことだと思う。学生時代はカリキュラムに乗っかって、与えられる課題を次から次へと必死にこなしていけば、いつのまにかちゃんとそれなりの「上がり」に到達し、卒業というわかりやすいゴールまである。でも、人生の中でそんなおめでたい時期は、たぶんもうない。今日の一日を、今週を、今月を、今年を、どう過ごしていくか。生活のために多くの時間とエネルギーを割かなければならない中で、どのように自分を広げ、深め、蓄積していけるか。自分の時間は自分で創り上げるしかない。たとえ、生活に追われ仕事に忙殺されてただ流されるしかないように思えても、あるいはたとえ、仕事のための時間はすべて秘書やマネージャーが管理してくれる身分になったとしても、自分の人生の時間の中心には、自分がしっかりと立っていよう・・・というわけで今回のキーワードは「時間」。


2006年下半期にあったことその1。9月に東京で第3回の作品展を開催した。一晩のコンサートで演奏される作品も演奏者のキャスティングも演奏の質も、コンサート全体の進行や雰囲気に至るまですべて私ひとりの責任という状況は、きわめてクリアですっきりしている。今回は半年間のロンドン研修の成果発表を兼ねていたので今までになく計画的に準備が進み、当日は家族や友人の暖かい支援を得て立見50席を急遽増やす大盛況となった。(ご協力頂いた皆様本当にありがとうございました。)作品展は2年に1度の開催を目標としているが、2時間のコンサートを構成できるだけの質と量の作品を2年間で生み出すのは容易ではない。次回2008年の第4回に向けて、また、まずは作品を書くところからスタート。2年に1度という時間枠を自分に課することはしんどいけれど、こうやってつんのめりながら駆け抜けていくのもまあよいかと思う。


その2。テレビ朝日の「ロンドンハーツ」というバラエティー番組の冬スペシャルを音楽監修した。12人のタレント・芸人が初めて触る楽器を練習して公開のコンサートで一曲披露するという企画で、わずか50日の間に、打ち合わせ、編曲、タレント指導、全体合奏指導、そしてコンサート本番までが怒涛のように進行する。10月から12月にかけてのコンサートシーズン最繁忙期、大学の授業も行事も佳境に入るのと同時進行で、巨大なプロジェクトがばく進していた。幸いテレビの仕事は深夜の時間帯も多く、私のスケジュールにうまく合わせて頂けたので、今やかわいくて仕方ないタレントさん達と一緒に50日間を一気に走りぬけた。長時間の収録立会いもあるし、24時間のうちに仙台と東京を一往復半するような体力的なきつさはあるが、このような短期集中の疾風怒濤は、一瞬に凝縮された達成感をもたらしてくれる。

 

その3。その後、大晦日の年越し番組も担当した。こちらはさらに短期決戦で、編曲、コーラス指導、タレント指導をクリスマス前後の一週間くらいの間に一気にまとめあげたが、大晦日の本番立会いはできなかった。最初から本番当日は都合がつかないと明示してお引き受けした仕事だったが、気持ちとしては、一生懸命私の楽譜を暗譜して練習してくれたコーラス隊にも、わずかな練習期間で驚くほど上達しみるみる顔色まで明るくなっていったタレントにも情が移り、本番に立ち会って応援してあげたいと心から思った。しかし、大晦日に本番のロケ地に行くために生じる無理は、自分の体力と気力を遥かに超えるので、心配な気持ちを抑えて彼らを信じることにした。仕事を足していくばかりがコントロールじゃない。抑制する方向のコントロールは、気持ちのコントロールにほかならない。


その4。もっとゆるくて気の長い話。星野富弘さんの詩に私が作曲した「二番目に言いたいこと」という歌曲集がある。1991年の初演当初からとても反響があり、特に、合唱曲にして欲しいというご要望は多く頂いていたが、もともと独唱で発想した曲を安易に合唱編曲する気になれないでいた。今世紀に入ってから、不思議なめぐり合わせが重なって星野富弘さんご本人との交流が始まり、CDも発売され、富弘さんが出演してお話されるコンサートのお仕事もたびたび頂くようになった。昨年はさらに、富弘さんご自身の詩の朗読と共に演奏する機会が秋に1度、冬に1度あり、これまで100回以上も本番にかけてきた曲が初めて弾く曲のように新鮮に響くのを経験した。それと前後して、11月の宮城学院創立120周年記念演奏会のために、この曲集をついに女声合唱に編曲することにした。この記念演奏会には、音楽科声楽アンサンブルの学生達を私が指揮して演奏する新曲「Floating Island」をすでに用意していたが、私と布田庸子先生が丹精こめて育ててきたこのアンサンブルの学生達に、富弘さんの詩を歌ってもらいたいと、とても自然にそう思えた。作品は成長する。特にこの作品に関しては、無理はせず、自分の気持ちの変化や周囲の成り行きに、ゆるりと自然に乗せていきたい。そう思って15年かけてここまできた。そういうゆるい構えもあってよいと思う。


私達の生きていく時間に寄り添って、さまざまな出来事が、長期短期さまざまなタイムスパンで、さまざまな進み方をしている。右を見れば激流に飲み込まれ流されそうな日々があり、左を見れば悠長にのんびりと進んだり止まったりするような年月が、同時に存在しているだろう。そしてその中心には常に必ず、どう生きたいかという意志をもった自分がいる。思い通りに進むことは少ないし、軌道変更や中断を余儀なくされることもあるだろう。でも、意志は持とう。こう生きたいという希望は持ち続けよう。それぞれの時間の進み方を楽しみ、満喫しよう。もし本当にやりたいことがあるなら、必死に頭と気を遣おう。案ずるよりも強く願おう。
・・・・今年もよろしくお願いします。


2007年1月
なかにしあかね