〈地域子ども学〉の構築~「子どもの育ちを尊ぶ」コミュニティの創成にむけて~
宮城学院女子大学は、事業名「東日本大震災を契機とする〈地域子ども学〉の構築~子どもの視点に立ったコミュニティ研究の拠点形成」により、文部科学省私立大学研究ブランディング事業の支援対象校に選定された(2018年度-2020年度)。
本学は、生きる学びの基盤となるリベラルアーツ教育と、子どもに寄り添う保育・教育学、および食育、居住学等の生活科学の融合により、教養ある自立した女性市民を長年にわたり輩出してきた。教養と実学の融合は「教養ある生活者」としての女性の育成という、本学ならではの強みといえる。とりわけ2011年の東日本大震災以降、地域社会の復興は今なお道半ばであり、なかでもハード面での復興の影で、子ども・子育てにかかわる諸問題が喫緊の課題となっている。大震災後の経験からは、目の前の子どものための「支援」の具体性が問われ、孤立する家族、女性が抱える困難も浮上している。
本事業では、学術研究と教育実践の場としての大学の強みを最大限に生かし、震災の当事者性と専門性から新たなプロジェクトを共創するためのプラットフォーム〈地域子ども学〉研究センターを立ち上げることを企図した。これは北欧型フューチャーセンターをモデルとしている。
〈地域子ども学〉とは、本プロジェクトの議論から生まれた新たな概念であり、子どもの視点、子どもの主体性を重視し、地域の担い手とともに「子どもの育ちを尊ぶ」まちづくり・コミュニティ形成を目指す、学際的研究および実践学を意味する。
ここで重視する「子どもの視点」とは、当事者としての子どものニーズを分析し、子どもの声に寄り添う視点である。そして「子どもの視点」に立ったコミュニティ形成研究とは、壮大な社会的事業としてのまちづくり・コミュニティのあり方の検討に、生活者である市民、未来の担い手としての子どもたちが自発的にかかわる未来志向的プロジェクトを指している。
本プロジェクトにかかわる鍵概念として、子どもの意味を整理しておこう。国連「子どもの権利条約」によれば、子どもは、18歳未満の児童(子ども)をいい、権利をもつ主体と位置づけられている。また「子ども・子ども期」(child and childhood)について、UNESCO(2011)の区分に従えば、childhoodは0歳から12歳までを目安とする。本プロジェクトで子ども、あるいは子どもの視点というとき、対象としての子どもを、概ね幼児・児童の年齢段階ととらえているが、子どもの定義はより広く、出生前の胎児から青年期までととらえることができる。とりわけ、子どもの命、子どもの人権保障を論じるうえで、子どもの定義自体の再検討、子どもの育ちを尊ぶとはどういうことか、といった議論が求められる。
本プロジェクトにおける「子どもと教育研究」は、地域の担い手とともに、子どもの「学び」「食」「居場所」を最重要課題とするまちづくり・コミュニティ形成を目指す学術研究と実践学であり、子ども・子育て支援、市民と子どものエンパワーメントを軸に、「子どもの育ちを尊ぶ」コミュニティをともに創ることを企図している。
「子どもの育ちを尊ぶこと」は、いのちを尊ぶこと。それは一国規模の問題にとどまらず、ひとり一人の子どもの人権保障という、世界的課題ともつながっている。
本学は、よりよい社会のために、新しい仕組みを踏み出し、変化を引き起こすアイデアと教育実践の蓄積にむけて、地域にひらかれた事業の推進に努めるものである。
天童睦子(宮城学院女子大学・教授)

自然環境の中で遊ぶ Playing in nature, Helsingborg, Sweden

「子どもと教育」調査,pedagogic center,Helsingborg, Sweden(2019)

食育調査 Food education for children in Helsingborg, Sweden

子どもの視点を活かした菓子作り,富谷のブルーベリーを用いて,MGUうふカフェ(2019,7月)
富谷市・若生裕俊市長(左),平本福子先生(中心奥),右から佐々木副学長,天童睦子教授